2部 1章 ナルトとシカマル、そしてイルカが歩む道を決めた次の日から修行を始めることになった。 夜、ほとんどの者が寝静まった頃、ナルトとシカマルはアカデミーの前に来ていた。 あらかじめイルカに指定された場所がそこであった。 「…傷は、平気か?」 「昨日のか?大丈夫だよ、あんなん傷なんてもんじゃねぇしな。」 イルカが来るまでの間、二人はぎこちないがポツポツと会話をかわしていた。 ぎこちなくはあるが、不思議と二人共嫌な感覚はなくのんびりとしたものだ。 ふとナルトは上を仰ぎ見る。 「待たせたか。」 「…別に。」 ナルトが見ていたあたりから突如暗部がおりてきた。 言わずもがな海怨―イルカである。 シカマルは突然現れたイルカに驚いてはいたが、ナルトがそれを気付いたことに素直に感心していたので驚きを顔には出していなかった。 「可愛げがないな、お前達は。」 「…?」 「うっせーよ。で、どうするんだ?」 ため息を一つこぼし、イルカはとりあえずついてこいとアカデミーの中へ歩き出した。 大人しくイルカについていくと開けた所へと出た。 そこはアカデミー生達が鍛錬などをする運動場のような場所である。 二人があたりを見回しているとイルカは素早く結界をはった。 「ここならそれなりに広さもあるし、多少何かあってもどうとでもなる。」 さて、とイルカは面をはずし二人の正面へ立つ。 二人はここまでずっと黙ってはきたものの、瞳は真剣に言葉を待っているようだった。 「まず、お前達を同時に修行させるのは不可能だ。力量も必要なこともまるで違う。」 「まぁ…そうだろうな。」 「何を、すればいいんだ」 まずは、とシカマルにクナイを渡した。 「お前はその頭脳に伴う実力をつけてもらう。どれくらいできるか、この後俺が少し相手をしてやる。」 「うげ…」 嫌そうな顔のシカマルを尻目にイルカはナルトへ向き直った。 「ナルト、お前は忍としての力はそれなりについている。基本はそのまま鍛えろ。」 「なら…何を、する?」 「それだ。」 「…?」 それ、と言われたものが理解できずナルトは首をかしげる。 イルカはため息をついてその喋り方だ、とナルトの額をはじいた。 「…どういう、ことだ。」 「お前は人として生きてく術が足りなさすぎる。知識や力があってもそんなんじゃ社会は生きていけない。大切なのは力のバランスだ。」 「どう、すればいい?」 「素はそのままでもいいが…嘘でもきちんと喋れるようになれ。あとは性格もだな。」 「………別に喋れないこともないが。」 まとめて考える分時間がかかるんだ、とナルトはマイペースだ。 だが本人はあくまでも真剣である。 時間が勿体ないなと、イルカはナルトに教えながらシカマルと手合わせを始めた。 「お前もこれからは忍として生きていこうとしているんだから、自分をも欺くくらいの力を持て。」 「…具体的に、どうすれば、いいんだ。」 「お前が今のまま表に出ても、皆はその力に恐怖し排除されるだけだ。まずは無害な子供になるよう努めろ。」 「無害な…子供。」 ナルトと会話しながらもシカマルとの手合わせの手は一切止まっていない。 シカマルは必死に食らいつくもイルカは最小限の動きでその手を止めていた。 「シカマル、別に体術だけじゃなくて忍術を使っていいんだぞ。」 「うるせー!どうやったって歯が立つかってんだー!」 その様子を眺め、ナルトは今まで見かけてきた子供たちを思い出した。 だが今までは全くと言っていいほど他人に興味を持っていなかったため、どんなものだったかピンときていなかった。 「言っとくがシカマルはあまり参考にするな、種類が違う。」 「失礼だな…チッ、影真似の術!」 「ふむ、その年で奈良の技を覚え始めたか。流石は旧家だな。」 シカマルの出した術も、その後の手も軽くかわされてしまった。 (旧家か…そういえばあの時の子供なら…) ナルトはシカマルの様子を見に行った際にシカマルと共にいた子供を思い出した。 邪気もなくただの無害そうな子供だった記憶があるし、イメージも他の記憶より鮮明に残っていた。 「無邪気で、感情の激しい、率直な…。」 「ナルト、イメージがついたらすぐ実行しろ。まぁ、とりあえず自分の名前くらいは簡単に言えるだろう。」 「…俺の、名前は、うずまき、ナルトだ。」 声は少しはずんだが顔は相変わらず無表情でなんだかチグハグだった。 ナルトにしてみればかなり意識してやったのだが、イルカは口元をひきつらせてナルトを見た。 「こりゃ…かなり時間がかかるな…シカマルもだが。」 「…くっ…はぁっ…チッ」 「よし、シカマル、いったん止めるぞ。」 と言うが早いかシカマルの体は地面にふわっと倒された。 攻撃してきた力の反動を利用されたのだ。 倒れこんだ瞬間シカマルは全身で息を吸い込むように荒い呼吸を繰り返した。 「はぁっはぁっはぁっはぁ…」 「カンとセンスはあるな、その頭もよく使えている。」 「はぁっはぁっはぁっ…そりゃっ、どーもっ…はぁっはぁ」 「だがやはりまだ力がないな。当分はひたすら修行だ。」 めんどくせー、とシカマルの口癖も力なく呼吸の中に消えた。 「で、ナルトだが…」 「……俺の名前はうずまきナルトだ。」 「間が長い。あと顔も怖いぞ。」 「…俺の名前、は、うずまきナルト、だ。」 「変な切り方をするな。あとまだ顔が怖い。」 「俺の名前は、うずまきナルト、だ。」 「一息で言えるだろう。少しは思い切って顔の筋肉を動かせ。」 「俺の名前は、うずまきナルトだ。」 「声が戻ってる、もっとイメージしろ。あと顔だ、顔。笑え。」 「俺の名前はうずまきナルトだ。」 「ギリギリ…でもないが…まぁ頑張りは認める。」 言葉は普通に発せられたものの、顔はガチガチで声も不自然だった。 イルカは頭を抱えため息をこぼした。 (まさか、本当に何もないところから教えるのがこんなに大変だとは…) 普通の人が知っていて当たり前のことをナルトはほとんど知らない。 もとより動物は本能と生きる中で自然に、必然的に生活の力を身につける。 だがナルトはかなり常軌から外れた生活を余儀なくされていた。 そのため文字の上での知識はあるが、実際それがどんなものなのか解らないのだ。 →2へ TOPへ 小説TOPへ |