7章 ナルトに少しだけ変化が生まれた。 海怨―イルカに襲われてから、ナルトが生きたいと願ったその日から。 ナルトはなるべく暴力から逃げるようになった。 今までは何も感じず、ひたすら終わるまで耐えているだけだった。 しかし今は一般人の時は瞬身や幻覚で逃げ、相手が忍の時はほんの少し抵抗するようになった。 だが相手を傷つけてしまうような時は力を抑え、暴力をうけてしまうこともある。 それでも以前に比べれば、かなり傷つく事はなくなったと言える。 そしてもう一つ変化があった。 ナルトは日が出ている時間に外へ出ることはあまりなかった。 だが今は夕暮れ前にこっそり外出し、遠目からある人物を見ている。 奈良シカマル。 最初は先日の雨で風邪をひいたと聞き、謝りに行ったのだ。 いや、行こうとしたのだ。 だが奈良家の敷居と己の立場がそれを足止めさせてしまっていた。 結局そのまま五日ほど過ぎ、シカマルの風邪は治った。 今は幼馴染達と遊んでいる。 (とりあえずは、もう、平気そう、だな…) 咳もでていないし、走ったりしても苦しそうではない。 その様子を見ながらナルトは悩んでいた。 (…どうしよう…) 体調が心配で今まで様子をうかがっていたが、回復した今、特にいる必要はない。 だが帰ろうかと考えても中々体が動かない。 かといって見ているだけで何かしようとはしない。 こんな風にどうしようと考える事自体初めてのナルトは結局その場から動けなかった。 戸惑いながらシカマル達の方を見ると、女の子と目が合ってしまった。 「みたことない子がいる!」 「!!」 (山中の一人娘か…!) シカマルの幼馴染の一人で旧家の山中イノ。 あまり関わってはいけない家の一つだ。 見つかっただけでなくイノは大きな声でナルトを指差した。 ナルトはすばやく身を翻し、その場を離れた。 「あ!ちょっとぉ!」 「どうしたの、イノ?」 「あそこにみたことない子がいたのよ、チョウジみえなかったの?」 イノは幼馴染の一人である秋道チョウジに訴えるが、彼はお菓子を食べていて何も見ていなかった。 「うーん、シカマルはみた?」 「あ?見てねぇよ…どんな奴だったんだ?」 「んっとねぇ、あたしよりこい金色のかみの男の子だったわよ。」 「!!」 「へぇ、めずらしい色だね。」 シカマルは興味ないといった様子が一変し、焦ったように周りを見渡した。 金色の髪で連想したのは、他の誰でもないナルトだ。 「おいイノ、そいつどっちに行った?!」 「え?た、たぶん、あっちの道に…」 いつものゆるい感じではないシカマルにイノは目を見開いている。 チョウジもお菓子を食べる手を止めシカマルを見つめた。 「悪い!俺ちょっと抜けるわ!」 「ちょっと、シカマル?!」 シカマルはイノが指差した方へ走って行ってしまった。 残された二人はシカマルが走って行った方向を見つめ、只呆然としてしまっていた。 「おい!ナルト!」 「!!」 あまり呼ばれることのない自分の名前に驚き、ナルトは振り返った。 そこにはシカマルが息を切らせながら立っていた。 「…ハァ、お前…あれから大丈夫だったのか?」 「あぁ…その、あの時は、すまなかった…」 巻き込んでしまった事と、風邪をひかせてしまった事、両方の意味を込めてナルトは頭を下げた。 「おいおい、謝んなよ…別に俺は何もしてねぇだろーが。」 「…いや、助けて、もらったし、風邪も、ひかせて、しまった。」 「知ってんのか。つか助けたなんて大げさだろ?」 「そんなこと…」 気にするなというシカマルと、謝るナルトの言い合いは何だかチグハグだが可愛らしいものだった。 しばらくの攻防戦の後、シカマルはため息をついて苦笑いをこぼした。 ナルトも自分が言い合っていた事を思い出し、バツが悪そうに顔を伏せた。 「おい、狐がいやがるぞ。」 「この間邪魔しやがったガキもいるじゃねぇか!」 穏やかな雰囲気をぶち壊すには十分すぎる程の大きな声が二人に飛ばされた。 先日ナルトに暴力をふるい、シカマルの登場により退散していった男達だった。 「やっぱり奈良のガキだぜ…大丈夫か?」 「狐なんかと仲良くしてるんだ、問題ねぇよ。」 ニヤニヤと笑う男達を前にナルトはシカマルを庇うように立つ。 やはり奈良家の人間だという事は男達にバレていた。 とにかくシカマルだけは逃がさなくてはとナルトは頭をめぐらせた。 「ガキ、お前狐のお仲間か?」 「狐だと…?」 「奈良家は化け狐の味方すんのかよ。」 だが考えている間にも男達は二人に詰め寄り、今にも手が出そうな状態だ。 「奈良家は、関係ない…」 「あぁ?化け狐が喋んじゃねぇよ!」 「貴様なんかが誰かと仲良くできるなんて思ってんのか!」 激昂した男はナルトを蹴り飛ばし、小さな体は地面に叩きつけられた。 「っナルト!くそってめぇら!」 「うるせぇぞガキ!」 シカマルは胸倉を掴まれ、体が宙にういた。 「くっ…」 「やめろ!そいつは、関係ない!」 「触るな化け物!」 苦しそうにするシカマルに焦ってナルトは手を伸ばすが、男達に阻まれてしまう。 今までは何も言わず、一度も叫ぼうとすらしなかったナルトが必死に抵抗する。 男達はナルトの今までにない反抗的な態度に苛立ちをつのらせていた。 そしてその矛先はシカマルにもむいてしまった。 「へっ、おトモダチを失くせば貴様も人の苦しみが解るかもな。」 ナルトは一瞬何を言っているのかわからなかったが、すぐにその意味を理解して制止を訴える声をあげた。 だが男はシカマルの首に手をかけ力をこめる。 苦しみの声の後にシカマルの体は力がぬけた。 刹那、ナルトは体の底から何かがあふれ出てくるのを感じ取った。 それは 黒く 暗く 沈むような 深い 激情 next 小説TOPへ TOPへ |