6章 体が回復し、動けるようになるまでシカマルはナルトから離れなかった。 ずっと体を支えナルトを守るように抱えていたのだ。 しっかりと動けるようになってもシカマルは手当をすると言い張ったが、これ以上迷惑はかけられないとナルトは断った。 最後までナルトを心配していたがなんとかなだめ、互いに別れて家路へとついた。 家へと帰る途中、ナルトは最後にシカマルが言った言葉を思い出していた。 (またな、か…) シカマルはナルトにはっきりと「またな。」と言って帰っていった。 初めて言われた言葉だった。 再び会おうという意思がこもった言葉。 シカマルにすればそこまで大した意味ではなかったかもしれないが、ナルトにはとても大きな言葉に感じた。 (また、会っていいのか…?) 今までこんな事を思うことがなかったナルトは戸惑っていた。 誰かに会おうとか会いたいだなんて思うこと、それ以前に誰かにそんな興味や関心を持つことがなかったのだ。 そのせいか自分はどうしたほうがよいのかと悩んでいた。 会っていいのか、という疑問を持つということはナルトが会いたいと思っているなによりの証拠なのだと本人はまだ気づいていなかった。 そんな事を考えながら歩いているといつのまにか家へと着いていた。 ドアを開け、今日はちゃんと拾って持ってきた食糧を玄関横に置き、一つ息を吐く。 「いい御身分だな、九尾。」 「…暗部、だと?」 突然現れた気配にナルトは静かに目を向けた。 三代目に鍛えられそれなりの力をつけたナルトにも全くわからなかった。 部屋の中にいる人物は暗部の装束をした黒髪の男。 特有の白い面の奥からは冷たい眼がナルトを見つめていた。 「なぜ、ここにいる。」 「なぜ、か。お前を監視するためにいつも俺達はいるだろう。」 「……。」 「気付いていただろう?」 確かにいつも誰かしらの暗部がいるのは知っていた。 だがこのようにはっきりと存在を主張し、ましてや接触したことなどなかった。 「全く、少しは驚いたりしたらどうだ。気味が悪い。」 「…何の用だ。」 「……随分偉そうな態度だな。化け物のくせに!」 「っ!」 突如暗部の殺気が溢れ出し、向かってきたかと思うと同時に首をつかまれ、ナルトの体はドアに押しつけられてしまった。 「ぐっ…。」 「この化け狐…何故貴様は悠々と生きているんだ。」 あぁこいつも他の里人と一緒なのか、とナルトは体の力を抜いた。 「ふん。飽きるまで好きにさせようってか?」 「……。」 「殺すまではしないとでも思ってるのか!」 グッと首をしめる力が強くなった。 ナルトは流石に苦しくなって顔をしかめた。 「…ぐっ…ぁ…」 「憎くて憎くてこんなにも怒りを持てあましている人間が、殺せないとでも思うか?」 「ふ…ぅ…」 「殺したくて殺したくてやっと俺はここまで来たんだ。」 言葉を紡ぐごとに男の殺気は増していき、わずかに見える瞳は狂気さえ感じられた。 「もう少しゆっくりと殺していってやろうと思っていたが…勘違い狐は早く処分しないとな。」 「…ぅ…っ?」 ほんの少しての力が弱まり、ナルトが男に目を向けると男の眼は嘲るようにまっすぐナルトを見ていた。 「化け物のくせにトモダチができると思ったのか?」 「!!」 その言葉にナルトは目を見開いた。 誰のことをいっているのか、ナルトはすぐにわかってしまった。 「普通のガキのように仲良くできるとでも思ったのか?」 「…。」 ナルトはその時男に言われ初めて気がついた。 自分が奈良シカマルという存在に対して、期待を持っていたことに。 「そんなことできると思ったのか?多すぎるほどの命を奪った貴様に!俺の両親を虫けらのように殺した狐に!」 自覚をした瞬間にナルトは再び現実を言い渡された気がした。 そんなものわかっている、と言い返してやりたいと思うくらいに。 「…奈良家の息子だったな、確か。」 「…!」 「子供のくせにあり得ないほど頭がよく回るというのに、馬鹿だな、化け物なんぞに近づいて。あぁ、異端同士気が合うのか… …なんだその目は。」 ナルトは無意識のうちに男を睨んでいた。 何も非のないシカマルへの暴言に胸のざわつきを覚えたのだ。 「まさか本当に勘違いをしていたのか…ならばお前も大切な人間を奪われてみるか?」 「!!」 暗に男はシカマルをも殺すと言っている。 ナルトは胸のざわめきを止められなくなってしまった。 「…奈良、は…無関係だ…手を、だす、な…」 「二回もお前を助けただろう。そのまま殺すべき化け物の貴様を。」 「関係、な、い…!」 「化け物の貴様にそんな事を言う権利などない!」 ゆるんでいた手の力は再び強いものになった。 あまりの強さに体がうき、ナルトは更に苦しくなってしまった。 「かはっ…!」 「貴様は化け物だ!あれだけの命を奪い、里を壊した狐が何故生きているんだ!」 何度も言われ、ぶつけられてきた感情。 “化け物”“何故生きている”“憎い”“死ね” もうこれまでか、とナルトは抵抗をやめた。 三代目と自ら死を選ばないと約束していたが、もう仕方のないことだと諦め心の中で詫びた。 これ以上生きる意味はない、そう死を覚悟した。 だがそうしてうかんだのは 今日初めて聞いた またな、という言葉 (…もう、会えない、な。) (あぁ…俺、は…) (あいつと…また…会いたかった、のか…) next 小説TOPへ TOPへ |