墓前じゃ何にも言わなかったくせに、しかもそのあとミレニアムタワーの中のレストランでたらふく食っておきながら、食後の一服と称して屋上まで俺をつれ回してようやく、なまえはほつりと綻びるように言った。


「誰かが死ななきゃならねえなら、俺が死にゃぁよかったな」


一際強く吹いた横殴りの風が、煙草の煙を攫っていった。じりりと赤く光ったそれをひょいと持ち上げながら、シニカルに口の片端だけ歪める笑い方は、冬の匂いをさせはじめた風よりも俺の内臓を冷たくする。それはしみじみ放った許しがたいほど馬鹿げた戯れ言よりずっと生々しく現実味を帯びた。


「くだらねえこと言ってんじゃねえぞ馬鹿野郎」


だから俺はばっさり切り捨ててやる。そんなはずない、そんなはずはないのだ、死んだほうが良かった人間なんていない、はずだ。胸中だというのに語尾が揺れた。そうやって十割否定しないと、俺の方がおかしくなりそうだ。それきりなまえは黙って白い煙を吸ったり吐いたりに集中した。



何の前触れもなく、なまえは人差し指と中指の間から煙草を逃がした。目が自然とそれを追う。風に流されて斜めに落ちていった赤は、すぐに見えなくなった。こんな日のこんな時ですら見下げた先のネオンまばゆい神室町は俺たちを下から照らすから、なまえの横顔は闇に紛れることもできないままだ。だからこいつはまだ、似合わない乱暴な言葉遣いも、黒のメンズスーツも、脱ぎ捨ててしまえない。






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