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天離る場所へ
「おれの後ろに立つな」その条件も追加して、おれと鬼たちは石段を上がる。石段の両端には行燈が灯っていて、足場を見やすくしてくれた。
「寂れた小屋がある」と言った骸の話は大嘘だろう、この先にはでかい屋敷があるに違いない。それしか考えられない。
おれの神経の大半は、太刀と少年の首の間に集中していた。一歩間違えれば隙を生み、加減を忘れたら少年の首が飛ぶ。
殺すつもりは毛頭ないので余計に意識しなければならない。
残りの神経は腹の虫が鳴かないように使った。
二、三歩先を行く骸はときどきこちらを気にしながら、道案内をしている。振り向く様が愛らしいなと思いつつも、顔に出したらお終いだと無表情を取り繕う。
「人間、屋敷に着いたらおまえは終いだぞ」
こんな状況でも、胸に納まる少年は動揺の一つも見せない。
さすが若頭と言ったところか。まだちっこいけれど、将来有望に違いない。
それであの骸は若頭補佐らしい。
まだ子どもなのに、その牛鬼という頭に見込まれたのだろう。が、幼子に色仕掛けを教えるような男だ。きっと助平なおやじかじじぃに違いない。
「おまえ凄いな、感心感心」
「呑気だな、喰われるぞ」
「――――どうかな? おれ妖怪だから」
よくよく考えれば、人間じゃないから喰われることはないかもしれない。でも殺されるんだろうな、よそ者だし若頭に脅しをかけたし自業自得か。
急に鬼たちが動きを止めるから、次の石段に右足を乗せたまま止まった。この体勢はなかなかきつい。
「――――え゛?」
「どうした、進めよ」
「お兄さん、妖怪なの?」
首ではなく身体をこちらに向けて、骸は多少驚いた声を上げた。
「あぁ」
――――なんの妖怪?
ごくごく当たりまえの疑問をぶつけられても、答えられない。
「さぁな」
なんの妖怪だったのか、自分はすっかり忘れてしまっていた。
そんな話有り得ないという奴も居る。自分の畏れを知らない奴などいないと言うが、いるんだな。恥ずかしながら、過去に山に籠っていろいろ修行的なことをしてみたが、畏れが見えたことはない。
(もうそろそろ着くかな)
あと少しで石段が終わる。
妖気の固まりが上で待ち受けている。予想じゃなくて、これは確信だ。
「いいから、進め」
そしてまた一歩、少年に合わせて石段を登った。
呑んだ唾の音は、はたして少年に聞こえてしまっただろうか。
天離る場所へ
必ず討つと、拳を握った