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あなたそんなに暇じゃないでしょ

毛先がちょっと生乾きなのが気になる。
しかもスッピン。
でも、そんなこと気にしている場合じゃない!

空の色は夜明けの淡いピンク色から、どんどん明るくなっていく。

私は集合時間に遅刻しそうなのだ。
息を切らし徹夜明けの身体に鞭打って、集合場所の“あん”と大きく書かれた門を目指して走っている。

護衛に付いてくれる忍さんはもう来ているだろうか。
カカシさんに帰省のための護衛を依頼しにいった時、このぐらいの任務だと通常は中忍の子を2人つけるって言っていた。
サクラちゃんの予想通りだ。
どんな人か少し緊張するな。
だって5日間も行動を共にするのだ。
せめてどちらか1人は女の子だと嬉しいのだけれど。

門が見えてきた。
あと少し!
と、いうところで私は自分の足に急ブレーキをかけた。

門の前には1人の男性が立っている。

一度、目を擦ってみた。
徹夜明けで私はきっと、ちょっとおかしいのだ。
見間違い見間違い。

もう一度よく目を見開いて見た。
ヘッドギアを付けた男性が私に向かって手を振っている。

なんで今、この人と会っちゃうの!?

「名前さん、おはようございます。」

笑顔で言われたら現実を受け入れるしかない。
ヤマトさんと会うのは森で散策して以来。
この二週間、私は薬剤室に缶詰め状態だったってのもあるけど、村に帰るかどうかを打ち明けていないのが気まずくてしょうがないし、今はまだ会いたくない。

里に戻ってきたら、ちゃんと話をしようと思っていたのに。
はぁ
なんで今、会っちゃうかな。

「…おはようございます。ヤマトさん、朝早くから任務ですか?」

仕方なく少し近付いて話しかけた。
あんまり見ないで欲しいな。
私、今日ボロボロなんです。

「そうですね。任務、かな?」

えらく歯切れの悪い言い方だ。
周りをキョロキョロと見回したが私の護衛に付いてくれる忍さんはまだ来ていないみたい。
待たせていないことにひとまずホッとしたがヤマトさんといるのが気まずい。

早く来て下さい!
と、心の底から願っていると彼は口を開いた。

「じゃぁ、行きましょうか。」

…………………はい?

「すみません。今、なんて言いましたか?」

幻聴が聞こえた気がする。

「だから、行きましょうかって。名前さんが帰省する護衛を僕が担当することになりましたので。」

なんだってー!!!!!

―――

名前さんは目を大きく見開いて、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をした。

そして、ありえない、とか
いや、そんなはずない、とかブツブツ呟いている。

はぁ。
この反応は傷付く。

森で散策した時ぶりだから、気まずいのだろうなとは思うけどさ。
僕だって今日どんな顔して会えばいいのか悩んでいたし。
でも、ここまでショックうけるのは酷いよ。

彼女は僕に好意を寄せてくれていると思っていたけれど、ここ最近まったく自信がなくなった。
やっぱりただの自意識過剰だったのかもしれない。

この間も僕の気持ちを見事に打ち砕く事件があったし……


待機所で名前さんの話題になった。

「春からどうすんのって聞いたら、仕事やりがいあるから残りたいって言ってた。」

アンコさんには打ち明けているのか…

「俺も聞いた。すんげぇ自分の故郷好きだし名前ちゃんからそんな発言聞くとは思わなかったな。」

…え?ライドウさんにも話してるの?

「でも、まだギリギリまで悩みたいって言ってたぜ。」

ちょっと待って!?ゲンマさんまで聞いてるんですか!?!?

みんなには聞かれたら言ってるのかい?
この前、森ではぐらかされたんだけど。
名前さんから直接聞いてないの…僕だけ?
なんで?

思わず、みんなに嫉妬している自分がいた。
そんなに僕じゃ頼りにならないのだろうか。
やっぱり、思いは通じ合っていると思っていたのは僕だけ?

そんな不安な気持ちの中、今回の護衛任務の話が舞い込んできた。
先週、火影室に呼び出されたのだ。

「テンゾウにお願いしたい任務が2つある。まず一つ目。最近、滝の国で抜け忍組織が活発に活動しているのは、おまえも耳に入ってるでしょ?」
「聞いています。麻薬や毒薬を売買して利益を上げているそうですね。」
「そっ!今回、そこの組織を潰すのを木の葉が請け負うことになったんだよね。で、オマエに組織解体の隊長を頼みたい。」

厄介な任務だ。

「出発はいつですか?」
「まだ数週間は先だよ。ちょっと大掛かりな捕物だから、今は偵察や侵入捜査をしているけど情報収集は今のところ難航しているからね。」
「数週間先、ですか…」

そんなすぐに帰れるような任務ではないな。
長引けば一ヶ月ほどかかるかもしれない。
もう来週には2月だ。
冬も終わりが近づいている。
数週間後に出発して、そこから長く見て一ヶ月の任務。
里に帰った頃にはもしかすると、名前さんはもういないかもしれない。
厄介な上に最悪。
断る選択肢はないけれど、気落ちしてしまう。

「了解です。情報が入り次第、連絡をお願いします。」
「ん、よろしく。でさ、もう一つの任務なんだけど……ムフフ」
「なんなんですか?」

き、気持ち悪い笑い方をしてる。
こういう時の先輩は僕で遊ぶ気なんだ!

「これ聞いたらオマエ、今日は俺に奢りたくなるよ?」
「任務言い渡されて奢りたくなんて誰もなりませんよ。」
「どうだろうね。来週から5日間のCランクの護衛任務。テンゾウにどうかなって思ったんだけど。抜け忍組織の情報収集はまだ難航しているし、来週は大丈夫でしょ?」

ピラっと先輩は依頼書を渡してきた。
Cランク?
その上、ちょっと日数かかるし。

「今更なんで僕になんですか?」
「依頼人名、見てみなさいよ。」

“依頼人  苗字名前“

ええ!?名前さん!???

「うーん、やっぱり優秀なテンゾウがCランク任務で5日もいないとなると困っちゃうしなー。他の誰かに頼もうかなー。」
「待って下さい!僕が行きます!行きます!」
「俺、今日はいい酒が呑みたい気分なんだけど。」

思わず必死になった僕に先輩はニコリと笑った。
またこのパターンか!

「はい、はい、奢りますよ!」
「いやぁ、悪いね。我ながら部下思いの上司だーネ。」
「部下思いの上司は毎度毎度たかりません。」

ーーー

先輩の配慮で通常なら僕が任されることがない任務だけれど、今ここにいる。

最近思う、彼女は僕に打ち明けるつもりなんてないのだ。
いつか彼女から話してくれるのを待とうと思っていた。
だけど僕はもう待つのをやめることにした。

自信が無くなったって、名前さんへの思いが消えたわけじゃない。
好きな気持ちはそう簡単に精算できない。
君を僕の人にしたいって思いは変わらないんだ。

だから、このチャンスの間に気持ちを伝える!

僕の想い人である名前さんを見るとまだ彼女は目の前の現実を受け入れたくない様子。
うん、ちょっとスネたくなる。

「僕じゃそんなに不満ですか?」
「不満だなんて、そんな!」
「なら、いいじゃないですか。」
「でも…上忍のヤマトさんが私なんかの護衛だなんて申し訳ないですし…。」

目を泳がせながら、本当に困ったといった様子の彼女。
僕に打ち明けてないのが気まずいのだろう。
じゃあ、さっさと言ってくれたらいいのに。
でも、きっと彼女は言わない。
この人は案外頑固だから。

「火影様も了承済みですよ。しっかり守りますから。さっ、行きましょ。」

ここは強引にでも引っ張っていかないと、前に進めなさそうだからね。
門をくぐり歩き出すと、彼女は慌てて追いかけてきた。
そして、横に並んだ君は恨めしそうに僕を見た。

「やっぱりカカシさんもグルなんですね。」

そうさ、その通りだ。
でも、僕だって君を捕まえるために必死なんだよ。

―――

そこからは森の中を2人黙って歩いた。
前に散策した時みたいに、名前さんはあっちこっちウロチョロすると思っていたのだけど。
今日は大人しい。
僕が護衛なのがそんなに嫌だったのかな。
だとしたら、かなりショックだ。

チラッと彼女を見ると元気がない。
と、いうか顔色が悪い気が…
歩くペースも普段より少し遅いし。

「名前さん、もしかして体調悪いんですか?」
「…………実は昨晩一睡もしてなくて。」
「寝てないんですか!?」
「このお休みをもらうために、ここのところ毎日残業に継ぐ残業でヘトヘトだったんです。でも、薬剤部のみんなが前日ぐらいは定時で帰らせてくれようとしたんですけどね。急患が入って、結局朝までコースに…」

彼女は大きくため息をついた。

「それはしんどいでしょう。僕、おんぶしましょうか?」
「そんなそんな!徹夜明けで出勤とかは今までもたまにあったし、大丈夫です。変に気を使わせてすみません。」

無理に笑顔まで作って強がっちゃって。
心配だなぁもう。

「本当に大丈夫ですか?僕にできることがあったら言ってください。」

すると名前さんは僕から目をそらした。
そして、彼女は躊躇いがちに口を開いたのだ。

「……じゃあ、あんまり見ないで欲しいです。」

なにそれ?傷付くことばっかりだ。

「僕に見られるのも嫌なの?」

ショックな気持ちを素直に伝えると名前さんはそういう意味じゃないんです!と、慌てた。

「あの…なんとか急いでお風呂だけは入りに帰ったんですけど、顔も髪もボロボロだから…ヤマトさんにこんな姿を見られるのが恥ずかしくて…」

僕の顔を見ずに小さく言う名前さん。
髪の毛を気にして撫で付けている。

確かに今日の朝現れた時に思った。
髪は少し乱れているし珍しくスッピンだったので、寝坊でもしたのかな?と。

僕に見られるのが恥ずかしい、か。
途端に落ち込んでいた気持ちが舞い上がる。
そんな理由で見られたくないだなんて、この人は本当にもう…

「可愛いです。名前さんは今日だっていつだって可愛いです。」

僕は思ったことが口からスルリと出ていた。
すると彼女は驚いた顔で僕を見上げた。

「ヤマトさんは誰にでもそんなこと言ってるんでしょう?」
「言いませんよ。」 

こんなの言わないよ。
今のは口からうっかり出てしまったのだ。

「だったら天然の女たらしです。」
「酷い言われようですね。」

進行方向を真っ直ぐ見つめた彼女はこっちを向いてはくれないけれど、耳が赤いのは僕からでも見える。
君も僕のことを好きだって、やっぱり思ってもいいよね。
思い違いじゃないよね。

―――

やっぱり、しんどい。
というか、しんどい通り越して気持ち悪くなってきた。
徹夜明けで山越えはキツすぎる。
体力には自信がある方だけれど、しょせんは一般人。
もう限界。ふらふら。
寝たいし倒れそう。

そんな私を気にしてヤマトさんは何度もおんぶしましょうか?て、言ってくれるけど…………
ヤマトさんの背中にしがみつくってことだよ!?

無理無理無理無理無理無理!

絶対に無理!
恥ずかし過ぎて頭が噴火する!

それに、これ以上彼のペースに乗るのも嫌だ。
午前中に少し足元が不安定な道があった。
すると、サッと手を繋がれたのだ。
あたふたとドキドキしてしまう私とは違って彼は危ないですから、とさらりと言った。
護衛で来てくれているのだし、これも任務の一貫?
だったら拒否するのも変だし。

でも、道が平坦になってもそのまま手は繋がれていたので勇気を出して言った。

「ヤマトさん…あの、もう大丈夫ですから。」
「そうだね。」
と、返されたけれど、手は繋がれたままだった。

彼の大きな手にドキドキするけど心地よくもあって、精一杯の勇気はサラリと受け流されるし…
このまま彼のペースに流されたくもなくて、うんうんと悩んでいるうちに、結局お昼ご飯を食べるお茶屋さんに着くまで繋いだままだった。

どうしちゃったの?

手だけでも私の脳みそは爆発なのだから…おんぶなんて考えたくもない。

だったら、しんどくても気持ち悪くても歩くしかない!
と、意気込んでみるものの足取りは重い。

ヤマトさんがまた私を気にしてチラチラと見ている。
歩くの遅いですよね、すみません。
頑張って歩かないと、またおんぶ攻撃にあってしまう。

「あの…やっぱり背負わせてもらえませんか?」

ほら、ね。

「遅いですよね、すみません。もうちょっと頑張ります。」

あぁ、申し訳ない。

「名前さんがとても頑張って歩かれているのは本当にわかるんですが、このままのペースだと日の入りまでに今日の宿に着けないと思います。まだ日もそんなに長くはないですし。だから背中に乗りましょう。」
「………………。」

そうですよね
もう、おんぶしかないですよね。
頭ではわかってはいるものの気持ちがついていけなくて、「お願いします」の一言がでない。

すると彼は片膝を地面につき、いわゆる“おんぶする態勢”を取った。

「夜の森は危険が増えますし、ね?」

ですよね。
いい大人なら冷静になれ自分。

「……はい、お願いします。」

なんとか言葉にはできたものの…
ゴクリ。
唾を飲んだ。
このたくましい背中に飛びつかねばならないなんて…!

バクバクバクバク

ええい!心臓うるさいぞ!

なかなか行動に移せずにいると、ヤマトさんはしびれを切らしたのかとんでもないことを言い出した。

「おんぶより前抱きの方がよかったですか?」

前抱きってお姫様抱っこ?
いや、それはもっと無理でしょ。

「本当にお世話かけます。重いとは思いますがお願いします。」

そして、えい!と背中に自分の身体を預けた。

想像以上にたくましい。
背中、広いな。

ドキドキする。
好きな人の背中だ。
男の人の身体って全然違う。

こんな至近距離じゃ、私の早い心臓の音は彼にきっと伝わってしまう。

それに今日の彼はなんだかいつもより積極的だ。
私ばっかりドキドキしちゃって悔しい。

落ちないように自分の腕を彼の首にまわした。
顔近い。
こんなのドキドキしすぎて心臓に悪いよ!