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持つべきものは友

グツグツグツグツ
いい匂いがしている。
やっぱり冬は鍋だ。

「名前さん、ポン酢どこですか?」
「冷蔵庫だよ。ありがと。」

今日はサクラちゃんと私の家で鍋パ。

”最近、元気ないじゃないですか。私でよかったら相談のりますよ?”

色々聞いて欲しいことがあったから、私のことをすっかり見透かしている彼女の発言に驚いてしまった。
優しい彼女の言葉に甘えて、今日は一緒に家で夕飯を食べることになった。

「そろそろ火が通ったかな。」
「食べましょ、食べましょ。」

二人で突く。
鍋はやっぱり誰かと食べると美味しさが倍増する。

「で、名前さん。胸の内をさらけ出しちゃって下さいよ。他言はしませんから。」

心配そうな顔を私に向けた。
本当に良い子だな。
私が男なら絶対サクラちゃんと付き合いたい。
こんな良い子を置いて旅にでるなんて、サスケ君、バチがあたるよ?

「ありがと。まぁサクラちゃんはだいたい検討ついてるとは思うけど。」
「そうですね。」
「村に帰るか、残るか。綱手様からは2月中には返事が欲しいって言われてるの。」

1月も中旬を過ぎた。
もう、本当に決断しないといけない。

「私やっぱり……この里でまだまだ働きたい。ここでは村にいた頃より仕事は責任重大だし大変だけど、私でも人の役に立ててるって思えて凄く嬉しいの。村では研究に集中できて楽しかったけど、今は患者さんとの距離が近いっていうか、目の前のこの人を救いたいって気持ちで働けて私にはその方が合ってると思う。」

昨日もそうだった。
病院の入院患者や一般の外来の人のために薬を用意するのはもちろんだが、任務で負傷した中忍の男の子が運ばれてきたのだ。
背中に深い傷を負った身体には毒がまわっていた。
シズネさんから呼び出しがあり、特殊な毒の解析を薬剤部長の私が任されたのだ。
毒が身体を侵し切る前に、解毒薬を作らねばならない。
時間との戦いだ。
絶対に助けるという思いと、間に合わないかもしれないという恐怖に震える気持ちをなんとか叱咤し、完成した薬がしっかりとその子の身体に効くまでは気が気じゃなかった。

緊急の患者対応に通常業務、薬剤部の指導、あと研究。
毎日、大忙し。
でも、私を求めてくれるこの場所が凄く大切だ。

サクラちゃんは箸を止めて真剣に聞いてくれていた。
医療忍者の彼女なら、尚更、目の前の人を救いたいという気持ちが強いであろう。

「でもね両親から届く手紙がね、凄く帰りを楽しみにしていて本当にいつも私のこと心配してくれててね…」
「名前さん、一人っ子ですしね。」
「そう。私自身も村を出る時は木の葉に行くのが辛くて…早く帰りたいって漏らしてたから、両親もずっとその私の印象なんだと思うの。」
「それに木の葉は戦闘にも巻き込まれましたし、ご両親も気が気じゃないでしょうね。」
「そうなのよ。手紙で帰らないって何度も書こうと思ったんだけど、任期が延長になった時、本当に落胆した返事が来てね。そのことを思うとやっぱり帰るべきかなって思うし…」

それに涙に濡れた手紙を思い出すと胸が痛い。

「でね、サクラちゃん。綱手様に5日間お休み下さいって言ったら通ると思う?」
「連続で、ですよね?」

うーん、と考えるサクラちゃん。

「そう。連続で。一旦帰省したいの。」

一般人の私の足だと、村までは丸々2日はかかる。
朝一番に里を出て、次の日の夕方に村に着く。
せっかく帰るのだからせめて一日ぐらいは村でゆっくりしたい。
そして、また2日かけて帰る。
そうなると5日だ。

「両親の顔を見てね、ちゃんと言えたら里に残る。両親の顔を見て、やっぱり言えなかったら…私は帰ろうと思う。でも、5日間はやっぱり難しいかな。」
「事情が事情ですし大丈夫なんじゃないですか?と、いうか休みは無理にでも勝ち取っていかないと一生もらえませんよ!言ったもん勝ちです!」
「そ、そうかな。」
「そうですよ!名前さん今まで一度も私用な休みを願い出たことないでしょ?」

私はこの5年間、皆勤賞なのだ。
風邪も引かず帰省もせず頑張った。

「それに私だってそのうちサスケ君を追いかけて旅にでるつもりなんです!どんなに引き止められたって、仕事が山盛りでも何が何でも追いかけるって決めてるんですからね。」

サクラちゃん凄い。
恋する乙女はパワフルだ!

「そうね!休みは勝ち取らないとね!」
「そのいきですよ!」
「あっお鍋が煮えすぎちゃう、ごめんごめん、食べよう!」

二人で慌ててちゃんと食べ始めた。
シャキシャキ感がすっかり失われた白菜もこれはこれで美味しい。

「やっぱり冬は鍋ね。」
「ですね。」
「名前さん、帰るなら護衛の人を付けた方がいいですよ。まだまだ物騒だし女の人なら尚更。」
「やっぱりそうだよね。それっていくらぐらいするかな?」
「詳しい金額はよくわかりませんけど、たぶんCランクの依頼に分類されると思います。5日間の宿泊と食費は依頼人持ちだから、ちょっと高くつくかもしれないですね。名前さんのとこの村ぐらいの距離と日数だと、中忍の子が二人つくんじゃないかな。だから、合わせて三人分の旅費もかかるってことですね。」

そういえば5年前、村から木の葉に行く時はお迎えの護衛の人が二人来てくれた。
そして途中の温泉街で素泊まり宿に一泊したことを思い出した。
あの時と違って今回はプライベートだから実費だ。
痛い出費だが、こればっかりはしょうがない。

分厚く切った大根を箸で割いた時、思わず彼のことを思い出した。
胸が痛い。

「で、ヤマト隊長とはどうなんですか?」
「サクラちゃん、エスパー!?それとも私って、そんなに顔に出てる!?」
「出てますよ。」

やだ、恥ずかしい!

「…好き、なの。ヤマトさんのこと。」

ちゃんと言葉にして人に言うのは初めてだ。

「何を今更。」

豚肉を追加しながら、呆れ顔で言われた。
そうよね、うん。
周りから見てて、みんなきっとわかってるよね。

「あぁ恥ずかしい。」
「恋してる名前さん、可愛いですよ。」

私の呟きに、ふふ、と笑って返された。

「でも、ヤマトさんには春には里からいなくなるかもしれないって言ってなくて…でも、彼は知ってるみたいで、打ち明けて欲しそうで…なのに、私、言えなくて………。」
「別に隊長は距離とか気にする人じゃないですよ。もし村に帰ったとしても、忍の足だったら半日で村まで行けますし。あの人きっとしょっちゅう会いに行きますよ。」

私はフルフルと首を振った。

「違うの。言えないのは、引き止めて欲しいってヤマトさんに期待しちゃう自分が嫌なの。彼はきっと行かないで、なんて言わないだろうけど。これは私が自分で考えなきゃいけないケジメなのに。こんな迷った心じゃきっと彼にすがっちゃう。それは嫌なの。自分勝手だよね。なんかもうヤマトさんに申し訳なさ過ぎて、ちゃんと結論出すまでは彼に会えない。」

胸の中のモヤモヤした悩みをサクラちゃんは私の目を見て、真剣に耳を傾けてくれていた。

「聞いてくれてありがとう。私、自分がこんなにダメな人間だなんて知らなかった。恋って怖いね。」
「名前さん、やっと気づいたんですか?恋って恐ろしいものですよ。」

サクラちゃんは少し切なげな顔だった。
きっと今、サスケ君を思っているのかな。

「この分野はサクラちゃんの方が一段と先輩だな。ご教授お願いします。」
「いいでしょう。」

私が頭を下げて言うと、コホンと咳払いをして、ふざけるサクラちゃんが可愛い。

「でも、隊長に恋して駄目駄目な名前さんの方が前よりもっと好きだな。」
「なにそれ?」
「いや、ホントに。恋してる人って魅力的ですよ。」

それは一理あるかもしれない。
だって私はずっと恋するサクラちゃんが眩しくてたまらないと思っていたのだから。

「じゃあ、今の私達って最強ね。」
「そうです。向かうところ敵無しですよ。」

二人、顔を見合わせて笑いあった。
サクラちゃん、ありがとね。