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冬の大根は異様に美味しい

名前へ
 元気にしていますか?風邪など引いていませんか?木の葉の里はどんな冬なのでしょう。今年も村の寒さは厳しいです。でも、お父さんもお母さんも元気にしていますよ。
 今日は少し雪が積もった森まで薬草摘みにみんなで行きました。寒いね、早く摘んで帰ろうね、と口々に言っていたのよ。そしたら、カナちゃんがね、「来年の冬は名前がいるからなかなか帰れないよ。あの子、もうちょっと…もうちょっとやろうよ!って、いつも時間を忘れて採集に熱を燃やすんだもの!」なんて言うから、みんなドッと笑ったのよ。
 今年の年末年始もきっと帰って来ないつもりなんでしょ?お母さんはちょっと淋しいけど、一生懸命仕事に励んでいる名前を誇りに思います。
 厳しい冬が過ぎれば春です。来年の桜は一緒に見られるのね。木の葉の里で5年も頑張った名前はどんな成長を遂げているのかしら。あともう少し頑張ってね。村のみんなも帰りを心待ちにしています。
お母さんより


どうしよう。
今朝届いた母からの手紙は私を酷く動揺させた。
そして今、モヤモヤした気持ちを抱えながら商店街までの道を歩いている。

私、本当に帰らないといけないのかな
帰りたくない、でも、帰るんだ。
そんなどっちつかずの気持ちでユラユラ揺れている。

もともと私は生涯村から一歩も出る気はなかった。
木漏れ日が広がる森で一日中薬草の採集をしたり、みんなでわいわい試行錯誤しながら調合作業を進める。
思いやり溢れる優しい人ばかり。
村のみんなが家族なのだ。
そう、天国みたいな暖かい場所。
だから年頃になったら村の誰かと結婚して子どもを産む
そして、我が子と森を散策しながら一緒に薬草を摘めたら最高の人生だって思っていた。
そのはずだったのにな……

”木の葉の里での薬学指導は名前が行け”

村長からそう告げられた時は目眩がした。
村から出るなんて考えてなかったんだもの。
自分で言うのもなんだけど、たしかに私は村の中で優秀な薬草学者だったとは思う。
でも自分の能力を評価されたことより悲しみの方が強かった。

”なんで?どうして私なの?行きたくない。”

泣く私を説得したのは両親だった。

”自分のやるべき事をやりなさい。”

そう言った父と母の目は今にも涙がこぼれそうだった。
木の葉崩しがまだ記憶に新しい時期でもあったし、心配で仕方がなかったのだろう。

里に来た当初は帰りたくてたまらなかった。
でも、年月ってすごい。

時が経つにつれ、自分を求めてくれるこの場所を大切に思えてきた。
この里の人達の優しさに触れて
一緒にこの里を守ることに誇りを感じている自分がいる。

正直なところ今はまだまだ木の葉の里のみんなと働きたい。
でも、私の帰りを待っている人のことを思うと胸が痛い。

もとは4年が5年になったときの両親の心配そうな手紙を思い出す。
その後、里が一人の忍によって壊滅状態になった。
生きていることを知らせた手紙の返信は涙の跡でいっぱいだった。

早く帰ってきて欲しいんだろうな。

でも里が無茶苦茶になった後、みんなで力を合わせて復興していく気持ちを共有したり
自分が作った薬をありがとう助かったよって使ってもらえる。
こんな私でも役に立つってことが嬉しい。
ここが自分の居場所に思えてきてならないの。
そんな時に綱手さまからのお誘い。

残りたい

だけど両親の顔が頭にちらつく

やっぱり帰るだ。
それでいいんだ。

…それで、いいの?

あー!ダメダメダメ!
しゃんとしなさい。自分の人生でしょ。
でも、考えても結論が出ない時は出ないのだ。
今やるべきことは買い物。集中集中。

今日の夕飯はどうしようかな
あ、大根が安い。これは買いだ。
一番美味しそうなのはどれかなー、と見比べるがどれもいい勝負。
心なし一番太くてツヤがあるように思えたものを手にとった。

その時だった。
ポンと肩を叩かれたのだ。

「名前さん、こんにちは。」

振り返るとヤマトさんがいた。
びっくり
偶然って何度も重なるものなのね。

ーーー

「ヤマトさんもお買い物ですか?」
「はい、今日の夕飯の買い出しに。」

”あなたを待ち伏せしていました”
とは、とてもじゃないが言えない。

「何を作るんですか?私、今日の献立に悩んでるので参考にさせてもらおうかな。」
「うーん。僕も考え中なんだ。でも大根は安いし買うつもり。」

僕も彼女と同じく大根を手に取った。
今日は特価だ。

「私もです。旬の野菜っていいですよね。美味しいし安いし。いいこと尽くしです。」
「そうですね。」
「大根を使った料理だと煮物かな。定番にふろふき大根でもいいし。迷っちゃいます。ヤマトさんは大根っていつもどんな風に調理します?」

楽しげに話す名前さん。
きっと料理が好きなのだろう。

「小さめに切ってお味噌汁に入れることが多いかな。」
「大根は火の通りがちょっと時間かかりますもんね。」
「そうそう、分厚く切った大根を煮たのは好きなんですけどね。煮るのがめんどくさくて、そんなのばっかりです。名前さんはよく煮物にするんですか?」
「そうですね、うん、します。て、いうのもね、じっくりコトコト煮込みたいところだけど、なかなか時間が取れないことも多いじゃないですか。だから昨年ついに圧力鍋を買っちゃったんですよ。これがホンットに便利で短時間で中までしっかり味が染みるんです。分厚く切った大根が中の中までジュワッーて染みてるんです。」
「それはいいですね。圧力鍋か。僕も買おうかな。ここのところ寒いからふろふき大根なんて食べたら美味しそうだ。」

名前さんと話していたら急にジュワっとなるまで煮た大根が食べたくなってきたな。
彼女はというと僕の言葉に賛同するようにうんうんと頷いている。

「ですよね。夏にあのジュワッーって求めないんですけど、冬はやたらと美味しく感じるんです。」
「そうそう、冬だから美味しいんですよね。」
「ヤマトさんもそう思います?気が合いますね。」

僕を見上げて嬉しそうはにかむ名前さん。
この人と話すのはどうしてこんなに居心地がいいんだろうか。

「よし!今日は大根を煮るっで決定です。」
「僕も食べたくなっちゃいました。今日は久しぶりにちゃんと作ってみようかな。」

彼女につられて今日はすっかり大根の口になってしまったよ。
すると名前さんはなんでもない風に言った。

「だったら一緒に食べます?」

え?

「すいません、今なんて言いました?」

僕の妄想?
聞き間違い?

「だから…私の家は圧力鍋あるしそんなに時間かからないんでよかったら一緒に食べますかって。」

あっ思考がついていかない。

「て、急すぎますよね。はは、何言ってるだろ自分。やめときましょう。」

彼女は大根を片手に恥ずかしそうに頭を掻いていた。
僕はというとちょっとの間、まばたきすら忘れてフリーズ。
だって、感激過ぎて言葉が上手く出ないんです。

「いっ、いいんですか!?」

なんとか出た声は少し大きくて恥ずかしかった。
名前さんは丸い目をキョトンと見開いてビックリしているし…

「私の手料理でよければ。窓枠のお礼をなにかしたいと思ってたので、ご馳走します。とは言っても、たいしたもの作れないですけど。」

なるほど、お礼ね。
名前さんそういうことはきっちりしそうだもんね。
窓枠直してよかった。

「いやぁ、期待しちゃうなー。」
「やっぱりやめときましょう。」
「ダメです。取消不可です。」

えーとか、ぶつぶつ言う名前さんとの他愛もない会話に思わず口元が緩む。

その後は僕に苦手な食べ物は何かと確認してくれたり
大根はブリ大根とふろふき大根のどっちが最強か、なんて話で盛り上がりながら、魚屋にも寄って帰った。

魚屋のオバさんに、「あら、名前ちゃん、ついに彼氏作ったのー?」と言われて僕は内心舞い上がったのに対し「ハハッ!そんなわけないじゃないですか!」と、あっけらかんと答えられたのはショックだったけど。

誰かの手料理を食べるのって物凄く久しぶりだ。
しかもそれが名前さんのなんて信じられない。

ーーー

「ちゃちゃっと作りますね。テレビでも本でも好きに見てもらっていいので。くつろいでて下さい。」

そして彼女はコタツの電気をパチンとつけて、カウンターキッチンに入っていった。
その背中をすぐさま追い、僕もキッチンに足を踏み入れた。

「手伝います。」
「それじゃ、お礼になりませんよ。」

せっかくだから一緒にいたいのに。
名前さんに背中をグイグイと押され追い出されてしまった。
でも僕のために作ってくれる彼女の姿を見て幸せがこみ上げるので、これはこれでいいかもしれない。

幻術じゃないよね?
無限月読?


するすると大根の皮を向きながら私は考えていた。
なんでこんなことになったのだろう、と。

木の葉に来て男の人を家にあげたことなんて一度もない。
まして、自分から誘うなんてありえない。
“彼氏いない歴=年齢”の自分の大胆な発言に我ながら驚いている。
今日だって、この前だって、勝手に口が動いていたのだ。
そう、勝手に。

だってヤマトさん話しやすいんだもの。
それに可愛い。
顔を赤くして、いいんですか!?て…
そこそこのお歳だと思うんですけど純情な人なのかな。

コタツに座って本を読んでいるヤマトさんの横顔をちらりと盗み見した。

今日はヘッドギアしてないんだ。
あのぐらいの短髪好き。
かっこいい。

サクラちゃんの言葉が頭によぎる。

“ヤマト隊長みたいな男の人、どう思います?”

正直なところ、タイプなんだと思う。
誠実で、優しくて、可愛らしくて、かっこいい。
一緒にいると落ち着くし、会話が弾む。
こんな人が村にいて結婚できたらいいのに、とさえ思う。
でも、私は両親が待っているのだから。
里で好きな人は作らない。

カレイの煮付け ふろふき大根 だし巻き卵 しじみの味噌汁 かやくご飯

一汁三菜あるけど、もの凄く地味だ。
これお礼?って疑いたくなるほど、ごくごく普通の家庭料理。
あんまり待たせても申し訳ないと思い、時間をかけずに作れるものばかり。
お味噌汁なんて朝ご飯の残り物だし。

それに緑色が足りないな。
これまた簡単なものだけど、最後にあと一品ほうれん草の胡麻和えを作ることにした。
その中に胡桃を入れたら美味しいかも。
そのうち会えたら渡そうと用意していた胡桃を胡麻和えに加えてみた。
うん、なかなか美味しいじゃないの。

全体的に地味だけど、緑色が加わってちょっとマシになったと思いたい。
こんなお礼で申し訳ないが食べてもらおう。


「お待たせしました。」

声をかけられて僕はハッとした。
最初こそ自分のために料理をしてくれている名前さんをチラチラ見て幸せに浸っていた。
だけど何もしてないと変かなと思い、手にとった薬草学の本がなかなか興味深くて読みふけてしまっていた。

ダイニングテーブルには彩りのよい料理が並べられていた。

「わっ!凄い。美味しそうです。」
「簡単なものばかりで本当にお恥ずかしいんですが。窓枠ありがとうございました。」
「いやいや、ホントに美味しそうですよ。僕、和食好きだし嬉しいです。」

それに…僕のために用意されたと思うと頬が緩んでしまう。

「じゃあ、まず今日キッカケをくれた大根からいただきます。」

分厚い大根に用意されていた練味噌をつけて箸で食べやすい大きさにさいた。
煮汁がたくさん出てきて美味しそう。
口に入れると、熱くてハフハフしてしまう。

「ジュワッですね。ほっこりするな。美味しいです。」
「やっぱり冬はジュワッですよね。」

二人顔を見合わせて笑った。
どれもこれも美味しいし、味加減もちょうどいい。
胡麻和えに胡桃が入っているのが、凄く気に入った。

「これ、とても好きです。胡桃が好物なんですよ。」
「実は…ヤマトさんに何かお礼をしたくてサクラちゃんに相談したんです。そしたら胡桃がお好きだと聞いたので。」

わざわざ相談までしてたの?
窓枠一つ直したぐらいで?
そんなこと言われたら、僕ちょっと期待してしまうよ?
いや、律儀な人なだけかも。
魚屋で真っ向否定されたしな。


ヤマトさんはそれはもう見ていて気持ちがいいほどパクパク食べてくれた。
ご飯も2回もお代わりしてくれて、お釜は空っぽだ!
そして、いたって平凡な私の料理をどれもこれも美味しいと何度も言ってくれた。

「ヤマトさん、美味しいと言えばいいと思ってるでしょ。」
「美味しいものは美味しいんです。」

なんだか照れくさくて私は思わずボソリと可愛くないことを呟いてしまった。
すると、ちょっと必死な顔で抗議されて私をいっそう照れさせる。
さらに「胡麻和えは最後にとっておこう。」と微笑んでいるし…
そんな彼を見て私はどう反応したらよいものか悩んでしまう。
だって率直に褒められて、気恥ずかしいけど嬉しくて…

この人はどうしてこうも私を喜ばせるのが上手いのだろう、と感服してしまう。

「ご馳走様でした。」
「お粗末さまでした。」

綺麗に平らげてくれたお皿を下げようと手を伸ばしたら止められた。

「いやいや、自分で持っていくよ。」
「じゃあ、お願いします。」

そして、流しにお皿を運んだ彼は腕まくりをしだした…?

「よし、洗い物手伝います。」

な、なにを言ってるんだ!この人は……!?!?

「お礼の食事なのですから大人しくお茶でも飲んでて下さい。」
「こんなに美味しい料理を食べさせてもらったんだから、何か僕もしたいんだよ。」
「いやいや、お礼のお礼なんていりません。」
「一緒にやったほうが楽しいでしょう?じゃあ僕は洗うんで、名前さんは流すのをお願いしますね。」

ヤマトさんはすかさずスポンジを掴んで洗い出してしまった。
やだもう…
完璧に彼のペースにのせられている。
でも、こんな言い合いを楽しんでいる自分がいて…

「ホントにもう困った人です。」

そう、こんな楽しい気持ちは困る。
あぁ、好きになっちゃいそうだ。


名前さんは黙って流し始めた。
えっ?怒っちゃった?
そんなに洗われたくなかったのかな。
お皿をすすぐ音が部屋に響く。
この沈黙をいかに打破したらよいのだろう。

「…ありがとうございます。」

すると彼女は小さく呟いた。
見ると顔が真っ赤だ。
そして、僕を見上げて続けた。

「でも、ヤマトさん優しすぎですよ。」

もう、と少しふてくされてまた黙ってしまった。
なんなんだ、この反応は。
反則です。可愛い。

最後の一枚を流し終えた頃には元の名前さんに戻っていた。

「さっ!食後のお茶を飲みましょ。」

そこからはコタツに入ってお互いとりとめのない話をした。

「冬はコタツから出たくなくなって困るな。」と僕が言うと、
「そう!コタツは悪魔の道具だと思います!」と彼女は賛同した。

「私、不眠症の人に睡眠薬を渡す時にね、いつも言いたくなるんです。薬よりもコタツに入った方が絶対に寝れると思いますよーて。」
「じゃあお医者さんは処方箋にコタツって書かないといけないね。」
「そうそう、冬限定でね。」

そんな他愛もない話で笑いあった。
名前さんは僕が初め抱いていた印象よりも、ちょっと子どもじみた発言をする。
優しくて、柔らかくて、無邪気な人。

知れば知るほど惹かれていく。
いったいどこまで好きになるんだろう。

時計を見ればもう8時。
あっという間にこんな時間じゃないか。
女の人の家にこれ以上遅くまでいたら失礼だよね。

というか…
さっき名前さんが態勢をモゾモゾと変えた時に僕の足と彼女の足があたった。
その瞬間に名前さんは顔を赤らめて、ひゃっ、て言ったんだ。
そう、ひゃって。
そして、ごめんなさいと、物凄く照れていて…

好きな人と肌と肌が触れ合う距離で密室。
これ以上は駄目だ。
いろんな意味で駄目だ。
帰ろう。

「もうこんな時間だね。すっかり長居してしまったよ。今日はありがとう。凄く美味しかったし楽しかった。」
「よかった。私も凄く楽しかったです。時間があっという間に過ぎちゃってビックリしました。」

君も同じ気持ちだった?ホントに?

ジッと彼女を見ると頬に赤みがさしていく。
そんな顔されたら期待してしまうよ!

そして玄関で靴を履き、振り返り彼女と向き合った。
僕の心は緊張している。
なぜなら、彼女に伝えたいことがあるからだ。

「今度、飲みにいきませんか?ご馳走します。お礼がしたいんです。」

これは今日、名前さんに言おうともとから考えていたこと。


「だからお礼のお礼はいりませんってば。」

またお礼とか言い出すから私は笑ってしまった。

「違うんだ。」

そんな私にヤマトさんは真剣な眼差しを返してきた。

「君は覚えていないかもしれないけど…1年前、腕を治療してもらったんだ。ずっと、あの時のお礼がしたいと思っていて……。」

熱のこもった黒目がちな丸い目が私の瞳をとらえた。

やだ、そんなに見つめないで
思わず胸が高鳴った。

覚えていますよ。
私が慌てながら傷薬塗ったこと。
ヤマトさんの方こそ忘れてると思っていた。

こんなに真剣な顔でわざわざ1年前のお礼がしたいなんて言われたら、
もしかして、もしかするとヤマトさんは私のこと…
なんて思ってしまう。

「ダメかい?」

すると背の高いヤマトさんは少し腰を屈めて私の顔を覗き込んできた。

私たちはしばし沈黙の中見つめあった。
目を逸らせないよ。

顔に熱が集中していく。

心拍数が更に加速していくのがわかる。

心臓が口から飛び出しそう!!!

「……ダメじゃない、です。」

気づけば熱に浮かされたように私は答えていた。


そこからは、いつにしよう、なんて話をして
玄関に出てヤマトさんの背中が夜道に消えてしまうのを見届けた。

サクラちゃんの言葉がまた頭をよぎる。

“告白されたらどうします?”

今の私はあの問に前と同じように答えられるのだろうか。