あのまま部屋に戻って寝てもよかったのだが、何だか同じ空間に居づらくて私は外の非常階段に座っていた。
「はぁ〜、何であんなに必死に言っちゃったんだろ。反省だわ………
運命に抗ってみせる、か………」
自分の言った言葉を思わず復唱する。私は運命に抗いたかったのだろうか?
神羅どころか、運命を敵に回した発言のような気がする。
そのまましばらくボーッと外を眺め続けた。
1stの部屋はビルの上の階にあるため、思った以上にミッドガルを遠くまで見渡せる。
「アンジールの部屋でこんなに高いのに。
ここより上は誰が住んでるんだろ………」
「俺だ」
思いがけない声に驚いて体が跳ねる。
手すりから身を乗り出して見上げると、風に流れる銀髪が見えた。
「セフィロス、さん?」
「お前、そんな呼び方していたか?」
「………多分記憶にないので、もしかしたら1度も呼んでないのかもしれません」
さっきアンジールに訊かれた時はついオウム返しのようにセフィロスと言ってしまったが、本人を目の前に呼んだことは1度もないと思う。
するとセフィロスはそのことについて特に返事をするわけでもなく、一言だけ「来い」と言った。
何だか今日は珍しいことだらけだ。まさか英雄と1対1で話す日が来ようとは。
まだ部屋に戻るつもりもなかったため、非常階段を上る。
久しぶりの再会。
「あ、先日はありがとうございました。倒れるつもりはなかったんですけど………ご迷惑をお掛けしました」
「いや、いい」
「………………」
「………………」
無言。
1stメンバーは何でこうも寡黙な人が多いのだろう。ザックスの賑やかさが恋しくなる。
私はただ風に流れる銀髪を見つめ続けた。
「非常階段に出てくるなんて珍しいな」
「え?あ、はい。少しアンジールと喧嘩………ではないのですが、つい言い過ぎてしまって。
それで部屋に居づらくなって、ここに逃げてきました。
セフィロスさんは何故………」
「その呼び方をやめろ」
「へ?」
「アンジールのことは普通に呼ぶのだろう?なら俺も同じで構わない」
もし私が一般兵だったら周りに怒られるだろうなと純粋に思った。
でもこの人は英雄なのだ。1stでもない私が許されるはずがない。
そう思って渋っているとため息が聞こえた。
「お前が呼び捨てにするのはどういう人間だ」
「え?えーっと、友達とか?彼氏とか?それなりに仲のいい人だと思いますけど………」
「そうか。それなら友達でいい」
「は!?」
でいいって何がだろう?セフィロスが私と友達?
セフィロスが良くても私は良くない。
「ハードルが高過ぎます。
私まだ2ndにすらなってないんですよ?」
「クラスの良し悪しで友達をつくるのか?」
「いや、そういうわけじゃ………もういいです」
結局私が折れた。
英雄様はこんなに駄々をこねる人だったのだろうか。それにこんなに簡単に友達をつくれる人だったのだろうか。
「アンジールが喧嘩とは珍しいこともあるんだな」
「ええ、まあ………私のためを思って言ってくれた話だっていうのは理解できたのですが、納得できなくて私が反発したって感じです」
「2ndにはまだなっていないと言ったが、推薦はされたのだろう?」
「ご存知なんですね」
アンジールはどれだけのことをセフィロスに話しているのか、どういう気持ちで話しているのか………
それはわからない。
セフィロスもどういう気持ちで聞いていたのだろうか。女の話なんか興味ない?それとも親友の話すことだから興味はあった?
どちらにしても想像もつかない。
ライトで反射された景色を眺めるセフィロスの顔はどこか寂しげで………何を考えているのかはわからない。
でも、まるで絵画を見ているかのように美しかった。
「アンジールはお前たち2人を常に心配していた」
「私も?ザックスだけじゃなくて?」
「ああ、でも最近じゃお前の話ばかりしていたな」
「そう………ですか」
「あいつなりに信頼しているんだ。お前のことを。
だから2ndに推薦した」
アンジールは優しい。最後まで疑っていてとは言ったものの、きっとあの人はこれ以上私を疑えない。嬉しさ半分、辛さ半分。
「前を向いていろ」
突然なんの前触れもなく頭をポンポンとされる。
子供扱いをなのかわからないが、今度は優しく撫で始める。
「心配するな。前を向いていろ。
俯いていたら見えるものも見えなくなる」
「俯いていたら見えるものも見えなくなる………
そうですね、その通りだと思います。部屋に戻ったらもう一度アンジールと話してみます」
そう笑って答えると、セフィロスも微笑み返してくれる。初めて見るその笑顔に見惚れてしまいそうになってしまった。
しかし頭を撫でる手は止まる気配がない。
この異様な光景に我慢できなくなった私はセフィロスに尋ねた。
「何で私は撫でられ続けているのでしょうか………」
「アンジールが子猫だと言っていた」
当たり前のようにそう言われれば、顔が熱くなる気がした。
子猫なんて言われる歳でもないのに………アンジールにそう思われていただなんて、ただただ恥ずかしい。
「子犬のザックスに子猫のツカサだといつも言っている。
いい飼い主でよかったな」
笑うのを堪えるようにクックックッ………と口に手を当てていた。
(セフィロスもちゃんと笑えるんだなぁ………)
そんな姿を見ると何も言い返せない。
だって、こうして話すと普通の人間となんら変わらない。
翼があろうとジェノバ細胞がどうであろうと、生きてこの世に生まれた1つの生命だ。
心の奥がカッと熱くなる。
私、今嬉しいのかも。セフィロスが敵じゃないって思えて。
「1つ聞かせてください」
「俺に答えられることならな」
「運命って信じますか?」
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