運命なんて 




その晩………





ピリリリリリリ




(電話?………あ、アンジールだ)


今日はアンジールの帰りが私より遅い。そのため、たまには夕飯を作って待っていようと台所に立っている。
だって………もうこんなこと、最後かもしれないでしょう?


珍しく着信音が鳴ったと思ったら、メールではなく電話だった。
ディスプレイの表示を見ればアンジールの文字。


「はい、ツカサです」

「俺だ。今部屋にいるのか?」

「え?はい、帰りが遅いってことだったので夕飯を作ってます」

「夕飯………
そうか、もうすぐ帰る」


それだけ言って電話を切られた。
今まで帰るという電話なんてしたことないのに珍しいこともあるんだなと思う。

明日のウータイ任務でさえ気分が下がるのに………胸がザワザワする。











「今戻った」

「おかえりなさい。
お風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも………わ、た、し?」


ちょっとした笑いのつもりだったのだが、思いがけない返事が返ってくる。


「………そうだな、飯を食いながらお前にしよう」

「え!?何それ、どういう………!」

「違う。話がしたい」


私の横を通り過ぎていく冷静なアンジール。
ソファに座って剣を研き始めた。この光景は毎日必ず見る。
私だけ動揺してバカみたい。


「ここの生活は慣れたか?」


いつも見ているのに全く飽きなくて研ぐ姿に見とれていると突然声を掛けられた。思わずドキッとする。


「へ?あ、ああ………そうですね。
思った以上に順応している自分に驚いているくらいです」

「そうか………セフィロスとは相変わらず仲が良いのか?」

「セフィロス?そういえばあれから1度も会ってないかな………
ジュノンから帰ってきてメールはしたんですけど返事はなかったんです」


そう言うとアンジールは黙ってまた剣を研き始めた。


(セフィロスがどうしたんだろう………?)









「はい、ご飯ですよ。いただきます!」

「いただきます………何だか今日は豪華だな」


驚いた表情のアンジールを横目に私は小さくため息。この食事が最後になるかもしれないなんて本当は思いたくない。
話がしたい、だなんて………身構えてしまう弱い自分に渇を入れるために強く腕をつねる。



「明日、ウータイに行かなきゃですね………」

「そうだな。
この間みたいに1stが2人いるわけじゃないからすぐに助けてやれないかもしれないが、もうお前の力なら気を抜かなければ大丈夫だろう。いつも通りに任務をこなせばいい」

「はい………」


あのジュノンの任務からアンジールは少し私心配するようになった気がする。
あくまでも “気がする” 程度なのは、まだ私を疑う目が感じられるから。
それならずっと疑っていてくれて構わないのに、何故彼は私を気にするのか。
あの後何があったのか………意識を失ってから後のことは何も聞かされていない。


「それで今回、ザックスを1stに推薦した。
お前は2ndだ」


ご飯を食べながらまるで雑談のように言う。
ザックスを1stに推薦することは知っている。私も推薦するとは一体どういうことなのだろう?
そもそも私に正式なソルジャーのクラスなんかあったのだろうか?

そんな私の疑問に答えるかのように、アンジールが口を開いた。


「ザックスが1stになってお前が2ndに昇格できれば、2人が同じ任務をすることも増えるだろう」

「………どういう意味ですか?」




ザワザワ………


ザワザワ………………


胸のざわつきが煩い。

その理由を私は聞きたくない。私はそれを望んでいない。


「今後、俺に何かあったらザックスと行動しろ。
今まで通りの仕事でいい。上司がザックスになるというだけだ」


その言葉に一瞬目の前が真っ白になる。
ザックスにさえ推薦の話しかしなかったはずなのに、何故私にそんなことを言うのだろう。


「………な、に………それっ!それはどういう意味ですか!
それは念のための指示?それともこれから“何か”があるのですか?

もちろんザックスにはたくさんのことを教えてもらいました。
でも彼を上司にするつもりはありません!なのに………」

「………………」

「答えて、アンジール!!」


知ってる。
私は知ってしまっている。
これから何が起きるのか、なんて。
だからこそそれがアンジールの指示だとしても従うことなんて出来ない。


「………死ぬ覚悟をするくらいなら、生き抜く覚悟をしてください。
私はあなたを死なせるつもりはありません。それはこれからも、です。
アンジールからしたら私たちはまだ頼りないかもしれない。弱いかもしれない。
でも少なくとも死ぬつもりの人間よりは強いと思っています!」

「………死ぬ覚悟をしたわけではないのだがな。
お前は唯一の女性ソルジャーだ。地位はあった方がいいだろう。
それに瞳を見れば魔晄を浴びていないのがわかる。だからこそ、だ」


さもそれっぽい理由を話すその表情は伏し目がちだった。
取って付けたような理由に気付けない私じゃない。

もしかしたらアンジールは、もう自分がどういう選択をしていくのかわかっていたのかもしれない。
だからこそ残される私に道を与えてくれているのだろう。


この人は………ズルい。


「2nd推薦はありがたく受けます。でも私は神羅の犬になったわけじゃない。

そんな優しさは要りません。
疑うなら………最後まで私を疑っていてください」

「ツカサ………」


珍しく感情的になったせいで喉に物が通るわけもなく、そのまま箸を置く。
そして目の前のアンジールを真っ直ぐ見つめた。


「運命に抗ってみせます」

「!」

「これは私の覚悟です」

「お前、何を知っている」


しばらくお互い睨み合う。
アンジールの瞳は真っ直ぐだけれど揺れている。ああ、今は本気で私を疑っている目だ。


「私は絶対にアンジールとザックスを裏切らない」

「………………」


ごちそうさま、と言って席を立つ。
これで私の気持ちはちゃんと伝わっただろうか。






誰にも理解されなくて

神羅を敵に回したとしても


あなたたちに生きていてほしい。




これは私の自分勝手な我が儘です。






運命なんてくそ食らえだわ。








    
(1:4:12)
bkm