海底の宝物庫 | ナノ
手の鳴る方へ  [ 18/19 ]


「アオイ少将!おはようございます!!」

「あぁ、おはようございます。今日も元気がいいですね。鍛錬、頑張って」

「はい!ありがとうございます!!」



手の鳴る方へ



あれから十数年。
俺は破竹の勢いで海軍将校クラスまで登り詰めた。
少将、という地位ではあるけれど、それは祖父と同じ階級、もしくはそれより上に行くつもりはないと昇進の誘いを断り続け、現在のこの地位を維持している。
英雄と呼ばれる祖父より不出来な俺が、祖父より昇進するとか何の冗談なのか。
上の考えは全く理解できないし、それでいいと思っている。



「剣聖殿!!おはようございます!!」

「はい、おはよう」



そう、それから。
俺は能力者ではないけれど、前世で培った剣術を更に磨いたおかげで、現在は剣聖などという大層な二つ名も頂いている。
初めのうちこそ、実力主義の海軍の中で英雄と呼ばれる祖父の存在はやはり大きく、コネで今の地位まで登り詰めたなどと言われたが、そう言った輩は片っ端から叩きのめした為、今や余程の事がない限りそんな口をきく輩も居なくなった。

まぁ代わりと言ってはなんだが、叩きのめした奴らは何故か俺に惚れたと言って現在俺の部下になっていたりする訳だが。

こういう体育会系のノリというのだろうか。
転生する前も得意ではなかったが、この世界に転生した今もやはり理解しがたい物の一つだ。



「アオイ少将!!」

「ん?」



自分を呼ぶ声に振り返れば、部下である海兵が慌てた様子でこちらにやってきた。
その様子を見ただけで、彼が伝えようとする大凡の内容が想像出来てしまう位には、日常に組み込まれたやり取りの一つだ。



「…なんですか。また、自転車で逃亡でもしましたか?あの人」

「は、はいっ!アオイ少将のご命令通り見張りをつけていたのですが、少し目を離した隙に…!」

「………はぁ」



現在俺は、祖父の勧めもあり、かの大将青キジの補佐役を務めている。
しかし、漫画で読んでいた以上にサボり癖の酷いかの人は、1日1回は俺の居ない間に脱走する。
それを捕まえて書類を完成させるのもライフワークの一つだ。



「…わかりました。俺の出来る範囲で書類を片付けた後、捕獲に向かいます。他の方々にもそうお伝え頂けますかね?」

「はっ!了解いたしました!!」



とりあえず、大将は帰ってきたら仕置きだな。





――…・





「いや、悪かったよアオイ君。ほら、ここ数日また缶詰だったでしょ?だから息抜きがしたくてね?」

「毎日毎日脱走せず気を抜かず書類を片付けさえすれば缶詰にならずに済み定時に帰宅出来るということをそろそろ学習していただけませんかね?貴方を捜すのに部下を割く間にもお給料は発生しているんだということもそろそろお考え頂きたく」

「あー、はい。すみません」



反省しているのかそうでないのかわからない顔で謝る大将青キジことクザン大将は、あの漫画でもよく見る顔だった。
そんな人の部下になると祖父から言い渡された際は、面倒くさいことこの上ない未来しか想像できず、何度も断った。

断った、のだ。

それが祖父に通用するのかは別として。
気が付けば祖父は強引に移動届けを提出したらしく、現在この人の下で俺は働いている。
まぁ、赤犬や黄猿よりマシだと前向きに考えるしかない。



「はぁ…まったく、貴方がそんなんだから俺に変なあだ名がつくんです。どうしてくれるんですか」

「変なあだ名?なにそれ。剣聖とはまた違うわけ?」


クザン大将にコーヒーを淹れてやりながら思わずそう溢すと、彼の人は不思議そうにそう言った。
どうやら彼は、俺が軍内でなんと呼ばれているのか知らないようだ。
盛大にため息を吐きながら、大将の前にコーヒーを置き海楼石を織り込んだ縄を解いてやる。
今日はもう逃げ出さないことは日々の流れで承知しているからだ。
縄を解かれて身体が軽くなったのか、肩を回しているクザン大将に俺は眉間に皺を寄せながら口を開く。



「『大将青キジの女房役』ですよ。まったく…不名誉極まりない。俺にだって選ぶ権利くらいありますし、大体、俺は男です」

「あー、それは。うん。ごめん」

「まぁ、そう呼ばれることで貴方がしっかりと仕事をするなら、甘んじてお受けしますが…仕事もしないでほっつき歩くようなら…俺、移動届け(実家に)、出し(帰り)ますから」



一字一句区切りながら言えば、クザン大将はそっと目を逸らしたので、俺の言いたいこと(副音声)は正しく伝わったようだ。



「まぁ、とりあえずは有給消化で手を打ちましょう」

「えー…アオイ君いないと書類仕事が…」

「貴方が脱走しなければなんとかなります」



横暴だなぁ、なんて。そんなこと言う上司ににっこりと笑い(目が笑ってない?聞こえませんね)、更に書類を積んだところで漸く黙って仕事を始めた。

まったく。始めからそうしていればいいものを。


「心配しなくても大丈夫ですよ。暫くは、貴方の補佐の予定ですから」

「え?暫くしたら違うわけ?」

「それは、ほら。貴方次第です」



正直、ここに居るのは長くてもエース奪還までの間を予定しているので、期間まではわからない。
とりあえず、海軍にいるうちは何か特別なことでもない限り、この人の部下として働くつもりでいるので、そう言葉を濁した。







手の鳴る方へ
(俺に愛想尽かされないように、気をつけてください。ね?大将)

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