勘違い


ふと目を覚ますと、センセの姿はなかった。
なんで…
一緒に寝たはずなのに…。
センセの寝ていた場所に手を滑らせれば、シーツは冷たかった。

何故?

オレに何も言わず出ていったの?

もしかして…
オレは捨てられたんだろうか…。

その時は任務だなんて思いつかなくって、゛捨てられた“の思いが強くて…。
胸の中に黒い影が渦巻いていくようだ…。


その晩、センセは帰って来なかった。
次の日も、帰って来なかった。
やっぱりオレは捨てられたんだ…。

後から思うと滑稽だけど、その時はそれだけがぐるぐると頭の中を駆け巡った。
一人ベッドに横たわると、何ともいえない気持ちになる。


悲しくて…

淋しくて、辛くて…


センセ、センセと、心の中でその名を呼んだ。
けれど、どんなに呼んでもセンセは応えない。

オレは涙が盛り上がってくるのを止める事は出来なかった。



いつの間にか眠ってしまったのだろう。
ギシリとベッドが軋み、仄かな温もりを感じる。
少しして、目元を指先が拭っていった。


ああ、オレは泣いていたのか…。


そうだ、オレは暗闇にいた。
真っ暗闇の中、どんなに走っても、叫んでも、何の気配も感じ取れなかった。


オレはたった一人、闇に飲み込まれていた。

オレはセンセという光を失ったのだ。


センセがいない。


それだけでオレは闇の中で立ち尽くして、震えていた。


怖くて…寒くて…。



その時、ふわりと身体を包み込んだ温もりに、オレは夢中で縋りついた。
ふわりと抱きしめられ、大好きな匂いが鼻を掠め、オレはうっすら目を開く。
と、飛び込んできたのは優しく弧を描く青い瞳。


「どうしたの?カカシ」


優しい声が耳を打つ。


「センセ?」

「ん? ただいま、カカシ」


そう言って、センセはオレの額にキスを落として、それから啄むような口づけをした。




「…捨てられたのかと思った」


胸にグリグリと顔を押し付けながらカカシが言った。

こんな甘えた縋りつくような仕草をするなんて珍しい。
背中を撫でながらどうして?と聞いてみた。


「センセがいなかったから…」


ああ、ごめん。任務に行く時、お前があまりに可愛い顔で眠っていたから、声掛けずに出かけたんだ。


そう言うと、カカシの動きがピタリと止まった。


「カカシ?」

「…何でもない…」



オレの胸に顔を埋めるカカシを見れば、耳まで赤くなっている。
こういう時、頑固なカカシはなかなか理由を言おうとしない。
オレは、さっきの言葉と照らし合わせて考えてみた。

黙って消えたオレ。
捨てられたと思ったカカシ。

カカシはオレが任務に行ったとは思わなかったんだろうか…。
思わなかったから、捨てられたと思ったのか…?
だとしたら、かなり辛い思いをしたに違いない。
オレだって、カカシがいなくなったら発狂しかねない。


ごめんね、カカシ。辛い思いさせて。


カカシはふるふると首を振る。


ねぇ、カカシ。オレ、今理性が焼き切れそうなんだけど…。


カカシはコクンと頷く。


やめてって言われても、止められないよ?


また頷く。


朝まで寝かせてあげられないかも。


「いい…。オレもセンセを感じていたい…」


ああ、カカシ。お前はなんて…!
そんなことどこで覚えてきたんだい?
オレを煽ったんだ、覚悟はいいね?

カカシ…カカシ…


お前が嫌だと言っても、オレはお前を離さないよ。
例えお前に辛い思いを強いることになってもね…。

カカシ…、お前の全てはオレのもの。


今宵、お前の全てを奪い尽くそう…。








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