あなたへ 2


(4-side)


オレは臆病だからと、いつも逃げていた。

そう、それに気づいたのは、お前が笑顔を失ってから──。





自分の想いに気がついたのは、オレの告白にお前が泣きそうな顔をしたあの日。
それでも、お前はいつものように無愛想に答えたね。いつもと変わらない態度を貫き通そうとした。
態度は変わらなかったけど、その瞳は雄弁に語っていたよ、悲しい≠ニ。
お前にそんな瞳をさせてしまったのが辛くて情けなくて。何故そんな思いをするのかわからなくて…。

気付けばいつもお前のことを考えていた。どんな時も…彼女と肌を重ねている時でさえ。

オレ達は男同士だからと…オレはお前の師だから、だからお前が気になるだけだと、思い込もうとしていた。自分の本当の想いに気付いてはいけないと、本能がそうさせていたんだろう。
けれど、お前に笑顔が消えてから、お前の瞳が悲しそうに遠くを見るようになってから、それは唐突に突きつけられた。


カカシが好きだ──



その時、既にオレは婚礼を控えていて…。
だから、この想いは秘め、お前が幸せになることを祈っていた。
お前の笑顔を取り戻してくれる人物が現れることを祈って─その人物が自分ではないと思うとやりきれなかった。

オレではない誰かに笑顔を見せ、オレではない誰かと愛し合うのか……。
それが男であれ女であれ、許せないと思った。腹の底からふつふつと沸き上がるドス黒い想い。居もしない相手に憎しみをぶつけ、カカシを自分だけのものにしたいという欲望が鎌首を擡げる。
けれどそれはカカシの幸せを踏みつけるものだと自分を無理矢理押さえつけ、抑制し、すればするほど胸を掻き毟られるように苦しかった。が、カカシの為を思えば耐えられる、そう思っていた。

だが─多分任務の打ち合わせか何かだったのだろう、男がカカシの肩に軽く触れ、去っていく。それにカカシも手を上げて応えていた。それを目撃した時、自分の中で何かが弾ける音がした。


オレのカカシに誰かが触れるなど我慢ならない。カカシは誰にも触れさせない。カカシはオレのものだ。オレだけのものだ。
気がつけば、震えるカカシを組み敷いていた。

白い肌にいくつもの紅い所有印を刻み込み、カカシを貫き、揺さぶっていた。

こんな事をするつもりはなかったのに…。けれど、これでカカシはオレのものだ。オレだけのものだと、もう誰にも渡さないと、強欲な思いに支配されていた。

しかし、カカシの気持ちを無視したその行為は、続くことはなかった。


九尾の出現。自分の命と引き換えの術でなければ倒せない相手。
それでもオレは、カカシを守る為ならば、己の命など惜しくはなかった。


死ぬ間際、オレは漸く素直になれた。
もう、カカシの声は殆んど聞こえなかったけれど、自分の想いだけは伝えたかった。
こんな死の間際でなければ伝えられない情けない男でごめんね……。



カカシ…お前を愛してる──




fin.



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