Garden


アヤメの隠し事


アヤメが誰にも言えずにいる事とは、
「"魔獣"であるココノセに自身が少なからず恐怖を抱いている」という事である。
しかし、アヤメはその恐怖の対象と仲良くならなければいけない。
現実と、自身の恐怖を抱く気持ち。
どうしようもない相比に対して、誰にも相談出来ずに不安を隠せず悩んでいる。

アヤメは、サクラの手によって花霞の里の丘に植えられた"聖樹"の精霊である。
広意で言えば、樹の姿をした"魔物"の一種とも呼べるかもしれない。
本体は樹であるが、樹からそう離れていない場所までであれば
人の姿を真似た分身体のようなもので移動出来るようだ。
その性質は、自身や自身相応の者物に対して危険と判断したものを過剰な程に拒絶する。
(※対象としたものを排他し寄せ付けようとせず、自身やその身を護ろうとする)
其の対象は向けられる負の感情や、危害を加えようとする魔獣など広く及ぶ。

しかし、自身と同じ位大切にしている人間の姉、サクラには
花霞の里の守り神、"魔獣"であるココノセ様と仲良くなってほしいと強く望まれている。
姉がそう望む其の理由を、アヤメは知らない。
知らないがままに、其の望みを受け入れようとしている。
だって、他ならない、大好きな姉がそう望んでいるのだ。
叶えてあげたい、其の期待に精一杯応えたい。

ココノセ様は、花霞の里を危ない魔獣から護ってくれている守り神だと教えられている。
…だが、相手は"魔獣"なのだ。
他の、人間に害を及ぼす"危ないもの"だと教えられたのと、何が違うのだろう?

分からない。アヤメには、分からない。

ココノセ様なら大丈夫だと、そう言われても、「何が大丈夫なのか」分からない。
でも、里の皆から大切にされているひとなのだ。
聞くことなんか出来ない、どう聞けばいいのかも分からない。
この恐怖を、まだこの里へ馴染めていないこの孤独を、上手く言葉に出来ない。
其れに自身が"聖樹"であることをもし、ココノセ様に"敵"だと思われたら?
自身がココノセ様に恐怖を抱いている限り、
そう遠くない未来、ココノセ様を遠ざけて、追い出してしまうかもしれない。
獣であるココノセ様は、自身の敵と成り得るかもしれない私を
言わなくても、本能でそれを察知するかもしれない。
それでも仲良くしてくれるものなのだろうか。
この場から動けない、樹である自身が嫌われてしまったら、どうすればいいのだろうか。
…殺されてしまうのだろうか?
怖い。
幼い感情の中で、"もしも"が膨らんでいく。恐ろしい"魔獣"が牙を剥く。

どうして、"魔獣"であるのに他の"魔獣"とは違うのか。
どうして、"魔獣"であるのに人を護ろうとするのか。
どうして、…?

誰も教えてくれないことを、教えて欲しい。
もし、もしもココノセ様の其の心を、私が知る事が出来たなら。
もし、もしも、其の心が私と何も変わらないのなら…、

…こんな恐怖には打ち勝って、
一緒に、共に花霞の里で頑張っていきたいと、小さな花はそう密かに願っているのだ。
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