01

 
死ぬほどに愛して、死ぬほどに愛される。

それが私の夢。


「……荘(そう)くん、あのさ、」

「却下」

「ま、まだ何も言っ」

「またあの話だろ。くだらない」


なんて事を声にすれば、返ってくるのは否定的な言葉ばかり。


「俺、言わなかったか?毎年俺の誕生日にそれを言いに来るのやめて欲しい、って」


女の子らしくて可愛いね、なんて言って微笑んでくれていたのは最初の二、三回目くらいまで。

今日、十七歳になった彼は去年と同じようにうんざりした顔で私の言葉を遮ってくれた。


「彗那(せな)、来年の今日には俺達は夫婦になる」

「……」

「確かに親同士が決めた事だ。けど俺は何も不満はない。だから、お前の身勝手な理由で婚約を解消しようとは思わない」


身勝手な理由。

そう言われてしまうと、もう何も言えなくなる。

確かに身勝手だ。そんな事はとうの昔に自負している。でも、諦められない。

だって、たった一度の人生だもの。


「……荘くんは、それでいいの……?」


けれど、彼はやはり首を横に振ってなどくれない。

はぁ、とあからさまなため息を吐き出して、ゆっくりと私の方へと視線を向けた。


「彗那」

「……何……?」

「俺の、何が不満なんだ」

「……え、」


うんざりされながらも訴え続けてきたそれに対する返答は毎年同じものばかりで、今年もそうだと思っていた。

なのに何故か今年は彼からの問いが付け足されていて、想定外のそれに一瞬、言葉が詰まる。


「……不満……なんて、」


ありはしない。

眉目秀麗、文武両道。

周りからの評価はこんなものだろうけれど、両親達が幼なじみだったという事もあって私は物心ついたころから彼を知っている。

ぶっきらぼうでキツイ事も躊躇なく吐き出すけれど、根底にあるのは相手を思う気持ち。

いつも私の心配をしてくれていて、いつも私の為に泣いたり怒ったりしてくれていた。

まぁ、今は怒られてばかりだけど。そんな彼に対しての不満はこれっぽっちもない。


「ないなら、何故そうやって婚約を解消したがるんだ」


そう、彼にはない。

ないのだ、何も。


「……彗那。夢を見るのは悪い事じゃない。けど、現実も見ろ。もう子供じゃないんだ」


私達のこの関係には、私が求めているものがない。

ひとかけらも。


「彗那を幸せにするって、約束するから」


な?と、優しい声色と共に降りてきた大きな手は私の髪をくしゃりと撫でた。


夢見る乙女は眠らない
 (キミの言う幸せって、何?)
 
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