告げるのならば、早い内に。
知られるのならば、自らの口で。
絵画観賞を終え、ランチで腹を満たし、優雅に食後の紅茶を堪能している時にお兄様はそう言っていたけれど、私にとってそれは愚行でしかない。
世の中には、秘するからこそ価値を持つものがあるのだから。
「で?」
「……っ、や、」
「どこの誰?これ、付けたの」
今すぐ部屋に来い、と。
一方的で命令染みた言葉を吐き出すや否や断たれた通話に、いつも勝手にノックもなしに私の部屋に侵入するくせにわざわざ電話で呼び出すなんて珍しい事もあるのね、なんて思いながらも言われるがままに向かった荘くんの部屋。
ノックをすればいきなり腕を引っ張られ、引きずり込まれてベッドにぽいっ。
油断していた私は勿論そこへぼすりとダイブ。
何事!?と驚く間もなく、ぎしり、ベッドは軋んで視界のほとんどに影がかかった。
「だいたいの予想はつくけど、言い訳くらいはさせてやる」
かと思えば、破るつもりなのかと思えるほど無理矢理はだけさせられたブラウス。
否、ボタンのひとつくらいはおそらくちぎれているだろう。
捲れ上がったスカートを気にして足をモゾモゾさせている私の事なんて気にも止めず、一昨日、鏡の中で私が認識していた紅い跡のある場所を、ぐ、と指で押さえながら抑揚のない声を吐き出す荘くん。
勿論、彼の目は笑ってなどいない。
「……黙(だんま)りか……?彗那」
「……っ、」
なるほど。
お兄様はたった一日の猶予しか私にくれなかったようだ。
まぁ、お兄様もお兄様で必死なのだろうけれど。
それにしても、告げ口とは何とも。
「そんなに好きなのか」
「っん、や、め、」
「あいつが」
浅ましい。
なんて、今この場に居ない人の事を思えば、ぺろり、ぞくり、立て続けに異なる感触が首筋を襲う。
「……っ、やだ、退い……っ!」
どんっ、と覆い被さる目の前の胸板を両手で押し返した。
けれどもそれに効果など無く、寧ろそれが気に食わなかったのか、がぶりとそこそこの力で噛みつかれた。
間違ってもそれは甘噛みなどと呼べる代物ではなくて、突如として訪れた鋭い痛みに、じわり、視界が揺れる。
「いいよ。選ばせてやる」
「……っいた、い、」
痛い、痛い、痛い。
何で噛むの?何で噛んだの?
噛まれたそこに手を添えて、噛みついてきた彼に視線を向ければ、くつりと彼は笑った。
「大人しく俺に抱かれるか」
「……な、に、言って、」
「無理矢理、ヤられるか」
口元だけではなく、目も確かに笑っていた。
答えがひとつの選択肢 (どちらも、嫌よ)