〜2017 夢物語 | ナノ


  だっ、誰か〜!この中にお医者さんは居ませんか〜?


 
思えば、私の周りには突飛(とっぴ)な人間が多かった。

分かりやすい例を上げるとすれば実親だろうか。奴らは私が九歳の時に突然離婚した。

詳しい理由は知らない。それを訪ねる暇なんて与えてもらえなかったから。

そうして仕方なしに母親と暮らす事を選択すれば、およそ二年後に母は突然再婚した。

いきなりだった。本当にいきなり。

今日からこの人が名前のパパ(義父)よ、そしてこの子が名前の弟(義弟)よ。仲良くねっ。

だとか語尾にハートマークをつけて首を傾げる、そんな母と離婚した父の気持ちがこの時ばかりはほんの少しだけ理解出来たがそんなもんは今更で。

うん、分かった、と。

悩んでも仕方ない、と。

この家で、この母とこの義父とこの義弟と共に私は生きていかなければいけないのだから受け入れるしかないのだ、と。

子供ながらに色んな感情を飲み込んで飲み込んでまた飲み込んでさらに飲み込んで来た。

そのお陰で、最初の数年は普通だった義父の突然キャンプに行くぞ発言とか突然山に登るぞ発言とかたいして驚かなかったし、思春期に入った義弟の突然のお前近寄るな発言とか突然のお前が彼氏とかふざけんなよ発言とか突然の土日は予定入れんなデートとかしてんじゃねぇ馬鹿じゃねぇの発言とかもそれとなくスルー出来るようになった。


突然新しい家族が出来てから約十年。

義父に対しては五回に一回くらいの頻度でキャンプやら山登りやらに付き合えば満足してくれるし、義弟に関しては自分から近寄らず彼氏が出来ても家には呼ばず土日は友達(彼氏含むが現在はいない)との約束もあるからと半々くらいでお願いしますと頭を下げれば文句を言いつつも妥協してくれている。

そんな流れで日曜日の今日も、義弟のこれまた突然の出掛けるぞ発言に、はいは〜い、と流れ作業の如く返事をして、あとは黙って人混みの中を連れ回されていたのだが。

途中で迷子を発見してしまい、うわんうわん泣き喚くその子(女の子)に大丈夫?ママやパパとはぐれちゃったの?一緒に探す?と声を掛けたのがもしかしたら例のスイッチをオンにしちゃったのかもしれない。


「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

「ねーちゃ、あーとう、」

「いえいえ〜。良かったねぇ。またねぇ」


ぺこぺこと頭を下げるママさんと迷子の迷子の女の子にひらひらと手を振って、一安心だねぇ、と何気なく義弟の方に向くとがっつり視線が絡んで。

おおっとぉ?と珍しいその事象に、そろりと顔を初期位置へ戻せば、どこ見てんだこっち向け馬鹿が、と真横からの低トーンボイスが鼓膜に参入。

ああもう、また突飛でもない事を言い出すんだろうなぁこの子は。


「はは、何?」

「あと十ヵ月したら二十歳だろ。俺」

「あ〜うん、そうだねぇ」


二ヶ月前に十九歳になったばっかなのに何言ってんの?という、心の中だけにしか吐けない毒を撒き散らして、へらりと笑う。


誕生日ね。そうだね〜。一コしか違わないもんね〜私達。

てか何だいきなり。欲しいものでも見つけたのかな?


「名前、俺の子供産めよ」

「………………は?」

「は?じゃねぇ。産めよ。おらホテル行くぞ」


なんて軽はずみな予想は、金輪際しないと居そうにもない神に誓いました。


だっ、誰か〜!この中にお医者さんは居ませんか〜?さすがにもう私の手には負えませんっ!
 

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