これを試練と呼ぶならば、こんなにもツマラナイものはないよ。
身体は成長過程にあっても精神がまだまだ子供である年頃というのはどう転んでも残酷で、振り返れば自分でもどうしてそういう行動に出たのかなんて分からない事は珍しくはない。
だから私も、最初は傷付いて、悔しくて、ムカついて、一瞬だけど生きてる事が嫌になった。
けれど、そういうものなのだと受け入れて開き直ってしまえば何て事はない。
「好きだ」
高校に入学してから二回目の冬。
高校に入学してから三度目となる告白をされた。
だからといって私は特別美人だとか可愛いだとかそんな容姿は持ち合わせていない。
普通だ!と言いたいところだけれど、ひとつ下の特別可愛い容姿のスポーツ万能で人懐っこい性格の妹のせいで私は普通以下に格付けされている。
そんな私に告白する理由は当たり前だが純粋な好意によるものではない。
はっきり言おう。告白されて喜ぶ私を蔑む為だ。
事の発端は中学の二年の時。
元々、全てにおいて上位互換な妹と比較される事にうんざりしていた私に追い討ちをかけるように行(おこな)われた罰ゲーム。
付き合ってと言われて、私で良ければと返事をした私に対して、良いわけねぇだろばぁか!てめぇ鏡見たことあんのかよキメェんだよ!とコンマ一秒で手のひらを返したあの男の顔だけは今でも忘れてはいない。
なぜならその出来事がきっかけで、私に告白→私がOKする→や〜い引っかかった〜ドッキリでした〜!の流れが男子の間で流行ってしまったからだ。
二度目のそれに引っかかるかよとNOを吐き出せば、ノリ悪ぃなブスの癖にとキレられたりと最早私に逃げ場などなくて、告白される→OKする→ドッキリを告げられる→知ってるよ飽きないねと吐き捨てて帰る、という対処法まで生み出せてしまったのだからもう笑うしかない。
「俺と、付き合って欲しい」
高校に入ればなくなるかもと期待したものの、同中の人間がそれなりにいるせいか無くならないコレに対して私が吐き出すのは勿論テンプレ回答。
同じ中学だったのは知っているけれど、喋った事もなければ同じクラスにさえなった事のないその男に、私で良ければ、とにっこり笑う。
はい、ご希望通りノッてあげましたよ。
だから早く残りを済ませて私を帰らせてくださいな。
「……本当に?」
なんて態度を隠しもせずに、早くしろよと急かす視線を男に向けていれば、ぽつりと呟いて一歩近付く彼。
「…………ん?」
「本当に、付き合ってくれんの」
あれ?反応が予想と違うぞ。
ああ、ここに来て少しパターンを変えたのか成る程。
「え、うん、て、ちょ、な、」
なんて思っている間にも何故か、ジリジリと距離を詰めてくるその男。
そもそも会話が出来る距離にいたせいで、呆気なく隙間は埋まっていく。
ちょっぴり恐怖を感じて後退りを始めたものの、六歩目で背中に硬いものが触れ、行く手を阻まれた。
「なぁ」
「っひ」
瞬間、鼓膜のすぐ横で響く硬いものを叩いたような音。
何で壁叩くの!と怒れたのは頭の中だけで、陰りを孕(はら)んだ視界いっぱいに広がる男の顔と、自分よりも大きな身体がすぐ前にあるという圧迫感に身はすくむ。
「俺、確認したからな?」
退いてはくれまいか?と先程から逸らしたくても逸らせない視線にそれを含ませるも、どうやら彼は気付かないようで言葉を続ける。
だから!分かったから!くどいって!
そんな意味合いも込めてコクコクと首を縦に振れば、それまでどちらかと言えば無表情だった男の唇がゆるりと弧を描いた。
「言っておくけど、」
「……え」
「罰ゲームでもドッキリでもねぇからな」
「………………へ」
かと思えば、くつくつと喉を鳴らしてさらに顔を近付けてくる男。
「ちょ、ちょちょ、まっ」
「待たねぇ」
「ほん」
「それ以上言うなら犯すぞここで」
「っ」
その囁くような声色で紡がれた脅迫にぴしりと固まる身体。
それを見越していたのか、より一層口角を吊り上げた男はさも当然のように私の唇に噛みついた。
これを試練と呼ぶならば、こんなにもツマラナイものはないよ。なんてナマイキ言ってごめんなさい神様!謝ります!謝りますから、どうか私に人生のリセットボタンというご慈悲を!「ふぁっ、ふぁあすときすだったのに!」
「大丈夫、俺も」
「うるさいばか!!」