〜2017 夢物語 | ナノ


  先生ー!私ようやく進路が決まりました。


 
小学校も中学校も同じだったというのは知っていたが、交流があったわけではない。

けれど、私もあいつも、噂をされる立場の人間であったからか、高校生活三年目にして初めて同じクラスになったとは思えないほどに妙な親近感を覚えて、意気投合するのに要した時間は本当に一瞬だった。

というのもきっと、本人でさえ耳にしている噂話とそれから予想される家庭環境のせいだろう。

まぁ、家庭環境については自分がそうだから多分こいつもそうなんだろうなぁ、ぐらいの感覚で尋ねてみたら当たってたというだけなのだけれど。

他人に言わせるとこの感覚は、酷く特有なものだから理解に苦しむ、らしい。


「名前」

「んー?」

「悪ぃんだけど、今日姉貴達いねぇんだ。だから家来んの明日でいいか?」

「あー……いいけど、じゃあ今日は、」

「俺がお前ん家行く」

「ああ、まあ、バカ兄貴達はどうせ暇だろうからいいけど」


五人姉弟の末っ子である彼は、四人の姉のせいで女という生き物が嫌いだ。

五人兄妹の末っ子である私は、四人の兄のせいで男という生き物が嫌いだ。


「ねぇねぇ、名前達さぁ、毎日どっちかの家に行ってるんでしょ?なのに本当に付き合ってないの?」

「うん、付き合ってないよ」


四人の姉が兄だったら良かったのにと嘆く彼と、四人の兄が姉だったら良かったのにと嘆く私。

俺、お前と代わりてぇよと羨む彼と、私、あんたと代わりたいわと羨む私。

親近感を覚えはしたけれど、別にそれはとりわけて色っぽい感情ではない。

毎日どちらかの家に行くのはれっきとした理由があるわけで、勿論それにだって色っぽい理由はこれっぽっちも含まれていない。


「いや本当……あんた達、オカシイわ」

「そうかなぁ……普通じゃない?」

「いや付き合ってないなら普通じゃないし。だいたいあんた達、今でこそマシになったけど自他共に認める女嫌いと男嫌いでしょうが。何公衆の面前で堂々とイチャイチャしてんの」

「してないけど」

「してるし!今日は俺が行くとか、明日はお前が来いとか、イチャイチャじゃないなら何なのよ!」


現実的に物を言えば、お互いの姉と兄をまるっと取り替えるのはどう考えても無理な話。

しかし、だ。

取り替えるのは無理でも、取り替えたような気分を味わう、というのは可能なのだ。


「何なのよ?って言われても……ねぇ?」

「なぁ?」

「ほら!それ!」

「え?どれ?」

「ああもうイライラするっ!何か知らないけどすっごくイライラするっ!」


だから、お互いの家に交互に行く。

ただそれだけなのに小学校の頃からの私の親友であるチヒロはそれが、何か知らないけどすっごくイライラするっ!らしい。

両手で頭を抱え、ああああもうおおお!と奇声を上げる彼女を女嫌いと称されている彼がものすごく憐れんだ目で見ていたので、そんな彼の袖を掴み、帰ろっか、とへらりと笑った。


じゃあまた明日ねぇ、と親友に一時の別れを告げ、向かう先は当然靴箱。

トテトテとふたり並んで廊下を歩くようになってから、早いものでもう三ヶ月だ。


もうすぐ夏休みだねぇ。夏休み、どうする?旅行とか行っちゃう?全員で。

なんて、ほぼ冗談でしかない話題を出せば、何かを思い付いたのか、名案だ!と言わんばかりの表情を浮かべた彼が私へと視線を向けた。


「俺、思ったんだけどよ、」

「うん?」

「お前んとこに婿入りしたらお前の兄貴達の義弟(おとうと)になるんだよな?」

「それ言ったらさ、私があんたの嫁になったらあんたのお姉さん達の義妹(いもうと)になるんじゃん?」

「……つうか、」

「……うん、そうだよ、」

「婿とか嫁とか関係なく、」

「結婚したら私達、」

「家族、」

「だね」

「だな」


ぴた、とどちらかともなく止まる歩み。


「それ、やべぇな」

「うん、ヤバい」


ふは、と彼が吹き出すものだから、私もつられてくすくす笑ってしまった。

おそらく彼も、私と同じ事を思ったのだろう。


先生ー!私ようやく進路が決まりました。嫁に行きます!


「結婚、するか」

「うん、する」


異性としては愛せない、けれど、家族としてなら愛せる。

そんな私達はきっと、死ぬまで他人には理解されないのだろうな、という事を。
 

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