〜2017 夢物語 | ナノ


  バイトの帰り道にてずっと見てました的な告白をしてくれたイケメン=ロマンスの予感?


 
ずっと貴女を見てました。

好きです。

付き合って下さい。


バイトからの帰り道、いつも通る公園の前でそう告げられたのは今より数秒前の話。

数歩分ほど先で佇む彼を、全く知らない人ではないと言ってしまうと語弊があるかもしれない。

しかし私は、彼の顔だけは知ってしまっているのだから何と言うのが正解なのだろうか。


「あの、いきなりで本当、びっくりさせてしまったとは思うんですけど、」

「っえ、あ、いえ、」


彼は、私のバイト先であるカフェにたまにくる人だ。

すごくイケメンだとバイト仲間の女子達がキャアキャア裏で騒いでたのを知っていて、どれどれそんなにイケメンなのか?と興味本位で見たら、確かに世間でいうイケメンだなと納得するくらいに整った顔をしていたから顔だけは覚えていた。

けれどもそれだけだ。

何度か来店した姿を見かけた事はあるが、接客をした事は一度もない。

だから彼の言うように、ほんの少しだけびっくりはした。

したのだが、すぐにその驚きは別の感情が塗り潰したものから、今の私の心境の主成分はそれだけだ。


「……あの、お気持ちは嬉しいんですけど、ごめんなさい」

「……」

「私、かれ」

「彼氏さんとは先月別れましたよね?」

「…………あ、はい。別れたんですけど、まだ忘れられなくて、あの、」

「……あ、そう、だったんですか……すみません。無神経な事を」

「い、いえ、」


ひくり、ひきつりそうになる口端を必死で食い止め、何とか笑顔を作る。

先月別れたあの男に未練なんて微塵もないけれど、それを仮にも告白してきた人に対して吐露するほど私は馬鹿じゃない。

付き合っている人がいないなら、なんて台詞を最初から吐かせるつもりなんてないし、吐かれたとしても未練があるだの忘れられないだの言っておけば大抵は引くものだ。


「俺、待ちます」

「……え……と、何を……ですか?」

「貴女が、別れたその男を完全に忘れるのを」


勿論、例外はある。

完璧な断り方じゃないのは重々承知しているけれど、咄嗟に出てしまったそれを今さら別の言葉に変更するわけにもいかなくて、ええと、と思わず口ごもった。

きっとそれがいけなかったのだろう。


「家、どこですか?」

「……え、」

「送ります」


にこり、誰もが見惚れてしまうような笑みを浮かべた彼は私の手からするりとバックを掠め取り、空(あ)いたその手を握る。

突然のそれに処理が追い付かず呆けていれば、歩き出した彼にくいっと手を引かれて、足が動き始めた。


「……っ、あの、」

「はい」

「ば、バック、自分で持ちます……だから、あの、返して下さい」


どこですか?と聞かれたそれにまだ答えていないのにも関わらず、まるで知っているかのように、私の家の方向へと。


バイトの帰り道にてずっと見てました的な告白をしてくれたイケメン=ロマンスの予感?いいえ、ストーカー注意報です。
 

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