〜2017 夢物語 | ナノ


  上等だ、最後まで貫いてやんよ!


 
目を覚ましたら隣で男が寝ていた。

なんていうのは、漫画とかドラマとか小説なんかの冒頭で割りと使われる表現だ。

勿論それはフィクションの世界だから成り立つ情景であり、あんた誰?ここはどこ?何で私達裸なの?的なものが現実に起きようものなら寧ろよく今まで生きて来られたなお前と誉めてやりたい。

連れ込むにしろ連れ込まれたにしろ記憶ぐらいあるのが普通だ。そう、普通はね。

それがないっていうのはもう危機感という言葉さえ知らないんじゃないのかってレベル。

と、まぁそこまで言っておいて何なのだが、私は今猛烈に知りたい事がある。

それは何か?

ズッキンズッキンと無遠慮にこめかみを痛めつける二日酔いという名の頭痛に唸りながら起きたら隣に男が寝てるという情景が我が身に降りかかっていたという現状について、だ。

散々貶(けな)しておいてブーメランじゃねぇかクソアマ!なんてのは心の中だけでお願い出来るだろうか。

私だって望んでこうなっているわけじゃない。

否、二日酔いは自業自得だし、酔った勢いでワンナイトラブ的な展開もやっぱり自業自得だが私が解(げ)せないのはそこじゃあない。


ならば何が解せぬのか?

無論、未だ起きる気配もない隣の男が、だ。

大事な事だからもう一度言うが、解せないのは二日酔いでもワンナイトラブでもない。

隣の男。そう、この男が誰なのか、という事が問題なのだ。

全く知らない誰かさん、だとか。飲みに誘った同僚なり上司なり後輩なり、だとか。飲みに行った先で意気投合しちゃった顔しか知らない誰かさん、だとか。

その中のどれかにこの男が当てはまってくれたのならば、私とてここまで取り乱したりはしない。当てはまらないからこそ、解せぬ問題と化している。

そもそも、全く知らない誰かさんも飲みに誘った同僚なり上司なり後輩なりも飲みに行った先で意気投合しちゃった顔しか知らない誰かさんもあり得ない話なのだ。

なぜなら昨夜の私は、家で、一人で、やけ酒をしていたのだから。

忘れようにも、こればかりは忘れられない。

というよりもそう、忘れたいが故(ゆえ)のやけ酒で、そのやけ酒の理由は本当に第三者からすればまことクダラナイものなのだが聞いてくれるかい?

そうかいありがとう。実はねぇフラれたのだよ。

ああそうさ失恋さ。


明日は休日、フラれても丸一日引きこもれるから、なんて小狡い事を考えながら意中の彼に告白したら彼は言った。

真顔でこう言った。

悪い、今の聞かなかった事にしていいか?って。


はあああ!?

って思った私は決して間違ってないと思う。

その後、回れ右して脱兎の如く逃げた私も間違ってないと思う。

中、高、大、と同じ学舎に通い、お互い恋人が居た時期だってあったけどそれでもご飯だったり映画だったり一緒に行くぐらいの仲で、それこそ友情が愛情に変わったのっていつなんだろう?って思うぐらいにはあやふやな関係だった彼にそう言われたって事はつまりはそういう事で。

合わせる顔がないどころじゃない。がっつり打たれたんだよ終止符を。


なのに、何故だ。

何故、私をやけ酒からの二日酔いに追い込んだ優しさの欠片もない振り方をした貴様が、私のベッドで、私の隣で、スヤスヤと寝ているんだ。


「……っ……名前、顔、面白い」


訂正、起きてた。


「おはよ、名前」


おはよ、じゃねぇわドアホ!

起きてたならさっさと帰れ!

否、説明してから帰れ!

否否、説明して、散らかした物片付けて、私に謝ってから帰れ!


「……名前、言いたい事あるなら言えば?表情だけコロコロ変えられても、俺分からな」

「帰れ。そのにやけたツラ二度と見せんな。私の恋心返せ泥棒。犯罪者。終身刑になっちまえバーカ」


違あああう!

そんな事を言いたいんじゃない!うあああ!と相変わらず痛むこめかみを押さえて上下に頭を振れば、更なる痛みがこんにちはして悶える私。勿論、自業自得。

だが、くく、と真横から聞こえたそれには大いに苛ついて、何笑ってやがるんだと睨めばヤツは言った。

今度は笑いながら言った。


「誰が返すかバーカ」


は?

言葉を失う、とはまさに今のこれだろう。

何を言えばいいのか分からない。だから何も言えない。そんな私をどう思ったのかは知らないが、真横に未だ寝転んだままの男は笑顔をやめて言葉を続けた。


最後まで、だとか。話を聞かない、だとか。逃げやがって、だとか。

繋がらない、だとか。三時間経って漸(ようや)く、だとか。酔ってて、だとか。

俺だって、だとか。言った事、だとか。覚えてないんだろ、だとか。


「だから、」

「っ!」


訳わかんねぇ、訳わかんねぇ、訳わかんねぇ、マジこいつ意味不!ってリピート再生しながら聞いてるふりをしてれば、男は身体を起こして何故か私の両頬を大きなその手でむぎゅりと掴んだ。


「取り返すのは諦めて、俺に捧げとけよ。心も身体も、な」


ほぉつまり、セフレになろう、と?

ゲスい。こいつゲスい。

性格破綻し過ぎもう本当やだ。お前なんかもう好きじゃねぇよバーカバーカ!


「…………ふぇ、ひゃなひへ(手、離して)」


って言えるぐらいなら最初っから惚れてねぇよドちくしょうがあああ!


上等だ、最後まで貫いてやんよ!愛に生きて愛に死んでやるから覚悟しとけ!
 

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -