……あの、
多少なり、痛みに鈍感な部分があるのは自覚していた。
けれど、痛くないわけではないから、ズキズキと蠢(うごめ)くそれをまるっきり無視する事は出来ない。
「…………ん、」
意識が浮上して、まぶたが上がる。
ぼんやりとぼやけていた視界はそれほど時間を要さずに鮮明さを取り戻して、丸い電灯の埋め込まれた天井をそこに写し出した。
自分の部屋、ではない。
それを理解すると同時に浮かんだ疑問を確かめる為に身体を起こそうとするも、全身を這う痛みのせいでぴくりとも動かせず、断念。
ズキズキと頭も、肩も、背中も、お尻も、痛い。
ふぅ、と息を吐いて、再び天井へと意識を向ければ、ふと右手にある違和感に気付いた。
「………………誰……?」
人肌くらいの温もりと少し硬い感触から、右手を包み込むそれはおそらく人の手だろうと予想付ける。
けれども起き上がる事が出来ないから見る事も出来なくて確かめようがないからか、不意に音へと変わった疑問。
しかしそれに答える音はない。
人ではないのだろうかと指を曲げれば、ちょん、と指先がその温もりに触れた。
「……っ……る、か」
「……え、」
瞬間、ぎゅ、と強く握られた右手。
やっぱり人だったんだ、なんて呑気に思考を巡らせていれば、陰る視界。
「……涙華……っ、」
「……」
「良かっ、た、」
私を照らしていた電灯を遮るように覗き込むその人は、眉根を寄せながらも口元は笑っているという酷く奇妙な表情を浮かべたまま私の名前を呼んだ。
震える声で詰まらせながらも続けて吐き出された言葉は安堵を示唆していて、おそらく心配をしてくれていたのだろう。
さらりと額にかかる前髪を横へと流されて、するりと頬を撫でられた。
「……涙華……悪かった、」
「……」
「……傷付けるつもりなんて、なかったんだ、」
奇妙な表情が、苦悶の表情に変わる。
その移り変わりを見ていれば、視線の先にあるその人の瞳がゆらりと揺れた。
泣いている?
溢れて流れ落ちてはいないけれど、薄く膜の張った瞳はそれを思わせるのに十分過ぎる材料だ。
だけど、どうして?
仮に、本当にそうだとしたら、どうして泣くのだろうか。
「……あの、」
「……ん、どうした、」
滑り出そうになったそれは喉で塞き止めて、別のものを私はゆっくりと吐き出した。
「……どちら様、ですか……?」
視界が陰りを孕(はら)んだ瞬間に浮かんだ、最初の疑問を。
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