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高校最後の夏休みが終わってすぐに、それは起きた。
「……何?阿佐ヶ谷(あさがや)くん」
「あ……お、俺の名前……知っててくれたんだ」
「……まぁ……有名だから……キミ」
年が明けて、学年が変わると共に同じクラスへとやって来た転校生、阿佐ヶ谷 陽太(ようた)。
終始にこにこと人懐っこい笑顔を惜し気もなくばら蒔き、その笑顔に負けず劣らずな人懐っこい性格ですぐにクラスどころか学校そのものに馴染んだ人気者。
背は平均よりも高めで、足は長い。
地毛なのかはさておき、色素の薄いふわりとした猫っ毛はお洒落か寝癖か紙一重。
くっきりとした二重に、長い睫毛、真ん丸な瞳。
モデル、アイドル、etc……履歴書の職業欄にその類いを書かれていても納得するくらいの容姿を持ち合わせている彼は他校にもファンがいるとかいないとか。
「え……そ、そう……かな?」
「……少なくとも私はそう認識してる」
「……そ、そっか」
「……で?」
「え?」
「……用があるから、私を呼び止めたんでしょう?何の用?」
別分、知りたくなくとも勝手に知ってしまう噂を多々持つ彼と私は同じクラスだという事以外、全く接点がない。
四月から九月までの約五ヶ月間、彼と言葉を交わした事などあっただろうか。
「あ……えと……あの、その、」
おそらく、ない。
人を呼び止めておいて目の前でもにょもにょと口ごもる彼と接した記憶は残念ながら私の中には見当たらない。
元より私と彼では置かれている環境が違う。
片や人気者の彼と、"能面"というアダ名を付けられ全校生徒に遠巻きにされている私では、全く以て違うのだ。
「っ、き、霧嶋(きりしま)さんっ」
「……はい」
「おっ、俺と、つ、つつ、」
「…………筒……?」
「っ付き合って……くだっ、さい!」
そして私は、それに関わる事を好ましく思っていない。
他人=厄介事
(……何かの罰ゲーム……?)