愛となんたらは紙一重
あり得ないその状況に、ふるり、ふるり、と首がゆっくり動く。
「…………何で……こんな、」
「何で……て、見つかったから」
なのにまだ、息子は笑ってる。
「見つかった……て、あんた、自分が何したかわか」
「分かってるよ」
「……」
「俺は、母さんを護る為なら何だってするよ」
「……な、」
「だから、母さんは俺を一番に愛してて」
知らない。
私は、こんな息子を知らない。
「……あ、あい、してるわよ……いつだって、母さんの一番は」
「嘘ばっか」
「っ」
何とかしなきゃ。
と、こんな事をする必要はないのだと訴えかけようとすれば、それまで壁にもたれかかっていた息子はゆらりと身体を壁から離した。
「俺が二十歳になった途端、リツ先輩と寝てさ」
「……っ」
「父さんの事だって口では拒んでるけど結局は何度か二人で会ってるし」
「……そ、れは、」
「挙げ句、リツ先輩に耐えれなくなったらケンジさんのとこに逃げた」
ぺたり、ぺたり。
裸足なのか、音だけならば可愛らしいと思えるそれも今となっては恐怖心を煽るものでしかない。
「俺には何も言わずに。何の相談もなく。事後報告だけ」
「……」
「全然、一番じゃないし……俺」
一歩ずつ着実にこちらへと近付く息子。
足音が止むと同時にギシリと真下から軋音が聞こえて、視界には息子だけが映った。
「でも、もういいんだ」
「……」
「母さんは、俺だけを見て、俺だけと話して、俺の帰りをここで待っててくれたらいいから」
「…………や…………だ、そん、な、」
「壊れてもいいよ。俺の為だけに生きててくれれば、それでいいから」
にこっ、と。
満面の笑みを浮かべた、息子が。
愛となんたらは紙一重 (……こん……なの、狂ってる)
(恋をしたら誰だって狂うもんでしょ?)
END