Hello,Queen
常識がないのが、常識だ。
最優先は任務の遂行。
命などというものは自身のものさえあればいい。
いつ、如何なる時も、それは絶対であり、何人(なんびと)にも破れぬものだった。
「……キミが、新しいナイト様?」
ふふ、と。
目を細め、口端を緩やかに上げる彼女に出会うまでは。
「そうです、キャット様。彼は我が社がほ」
「キミには聞いてない」
「……っ、も、申し訳、ありません」
先の任務を終え、地に足を着けたのも束の間。
まるでそれを見計らったかのような召致に不満ひとつこぼさず応えれば、見知った四つの顔と見知らぬ二つの顔がそこには在った。
見知った顔達は口を閉じたまま己を見据え、見知らぬ顔達は微笑と畏怖をそれぞれ浮かべている。
話が全く見えない。
しかし意味のないものは許されないこの世界。無意味なものはひとつとてないだろう、と未だ微笑を浮かべたままのその顔に焦点を合わせた。
「次の任務は貴女の護衛、ですか」
"キャット様"と呼ばれていた彼女にそれほどの価値があるのだろうかと微塵も思わなかったといえば嘘になる。
しかしそれを決めるのは己ではない。彼女の価値がどうであれ、任務という命(めい)に従うまで。
ふふ、と。
返答はなく、相も変わらず微笑のみを浮かべた彼女から見知った顔の内のひとつへと視線を移動させた。
「ねぇ、」
「……はい」
瞬間、不意に触れらた右頬。
後ろ手で組んでいた腕が反射的に動きそうになった。
無論、動かしていればおそらく命は無かっただろうが。
「……キミの命は、私のモノ?」
「任務中はそうなります」
視線を戻せば、やはり微笑。
しかし、先程よりも微かに口角が上がっている。
「そう、良かった」
ふふ、と。
またしても声をこぼした彼女が頬に触れていない方の手をゆっくりと持上げる様が視界の端に映る。
「キャットよ。よろしくね、ナイト様」
その手にナイフが握られている事も、勿論、己の目には映っていた。
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