▽ 親友ナナセの恋愛事情
過ごした時間は関係ないと人は言うけれど。
あながちそれも間違ってはいないなと思う今日この頃。
「アユっ」
「……ナナセ」
日に透ける茶色い髪をふわりとなびかせて、ぶんぶんと手を振りながら満面の笑みを浮かべて私に飛び付いてくる彼女の名は、ナナセ。
人工密度の高い都会から、バスが一日に一本しかないこのド田舎に彼女が越してきたのはおよそ半年前の事で。
そんな彼女なとの出会いは、彼女が私の通う学校に転校してきて私の席の隣になったから。
ただ、それだけ。
なのに。出会ったその日に友達だと命名されたかと思えば、翌日には親友に昇進していた私。
今となっては笑い話だが、ナナセがそういう性格でなければ私はきっとただの隣の席の人になっていただろう。
不思議な子だな。彼女に抱いた第一印象はそれ。
都会っこな彼女はド田舎民にまぁよくモテた。
だが、彼女は告白された数だけごめんなさいと言って頭を下げていたので何となくその理由を聞くと、男の子は乱暴だから嫌いなの!だそうな。
やっぱり不思議な子だなと思った。
しかし引っ越して来てから一ヶ月が経った頃、図書館に連れて行かれたかと思えば絵本コーナーで立ち読み中の男をこっそりと陰から見ろと見せられた挙げ句、何かきゅんときちゃった。なんて語尾にハートマークつけられた時は頭の具合を疑った。
が、さらにそこから二週間後その絵本野郎に、告白しちゃった。てへっ。ってな具合にこれまた語尾にハートマークをつけられたあの時はさすがに言葉を失った私。
正気か、こいつ。
まぁ、ド田舎の図書館に居る奴なんてほぼ顔見知りだから誰が居てもそう思っただろうけれど、私が心底そう思う理由はそれだけじゃない。
「今日やけに機嫌いいね」
「っだ、だって、き、昨日のね、ユア君と」
「はいはい、手ぇ繋いだんでしょ。散々メールで聞いたって」
「っもう!アユは相変わらず淡白だよね。ナナは昨日の寝れなかったよ」
「……あんなバカ兄貴のどこがいいの」
図書館で本棚の陰からこっそり覗き見したあの日、絵本コーナーにいたのは私と同じ母の腹から同じ日に私の七分前に産まれた双子の兄、ユア。
願わくは、見間違いであって欲しかったのだが視力だけは抜群にいい私。見間違うどころかぼやけすらなかったのだ、残念ながら。
「何言ってんの、アユ。ユア君みたいに知的で紳士な人、他に居ないんだから!」
「……恋は盲目って言葉知ってる?」
「モクモク?」
たった七分早く産まれただけで兄貴ヅラしてるあのバカは一見するとナナセのいう通りに見えるらしいし、地元でこそ大人しいけれど、バスと電車を乗り継いだここよりも断然都会的な街ではユアに絡む奴なんかいない。
両親が離婚するまではそこに住んでいたってのもあるし、父親がその筋の人間だからそこそこ有名だったって事もある。
今のとこはそんな風の噂も届かないくらい田舎だからひそひそもされないし、みんな私達の素性も知らない。けれどユアが街に行けば、返り血を浴びて帰宅なんて日常茶飯事でたまに警察沙汰もあった。
「ま、いいや」
「えっ、何それひどいっ」
つまり、あいつはナナセの一番嫌いなタイプなのだ。
勿論その事はユアも当然知っている。私がこれ見よがしに言ってやった。ざまぁみろ!的なニュアンスで。
するとびっくり。今まで以上に猫をかぶりだしたあのバカ。キモくて仕方ない。
ああ、可哀想なナナセ。
「ってかさ、アユ」
「何」
「アユはさ、同じクラスのシノハラ君の事どう思う?」
「……はい?」
「今度さ、アユとナナとユア君とシノハラ君でダブルデートしない?」
「え、ヤダ」
「アユはさ、水族館と遊園地どっちがいい?」
「聞けよ人の話」
「いつがいいかな?」
「だから聞けっての」
なんて、確かにそれは思っているけれど。
同時に、あのバカにまんまと騙されてるナナセが可愛くて面白いからまだ教えてはあげない。
親友ナナセの恋愛事情 (一日百箱限定マカロンでどぉ?)
(…………)
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