甘え下手の続き的な何か








「どうすればいいんだよ、僕は」
「うるさいうるさいうるさいっ!!来ないでよっ」


トウコは手足をばたつかせて、Nの拘束から逃げた。
強引に腕を引かれて抱きすくめられ、あまつさえ突然キスまでされそうになったのだ。付き合いはじめで、トウコにとってはNが初めての恋人だった。キスなど生まれてこの方したこともない。


「と、とにかく離れてよ!あたしにも心の準備ってもんが!」

こんな、なんでもない道のはしっこでファーストキスをしたくはない。もっと素敵な、ムードたっぷりの場所で、なんてワガママなんだろうか。


「…?ごめん、気に障ったなら謝るよ。悪気はなかったんだ」

そんなのわかってる。あたしだって、抱き締められて、キスされそうになって、嬉しかった。けど、急すぎてびっくりしたの。
突き飛ばされたNは、拗ねたような表情で低い声を出した。

「君も、こうしたいんだと思ったんだけど」

こうしたい、というのはさっきの抱き締めとキスのことを言っているのだろうか。


「…それはっ、そんなこと、ない」
「手を繋ぐだけじゃ物足りない、って顔をしてた」

図星を突かれて頬が染まる。
「してないよ!」

「…そう。勘違いならごめんね。僕がしたかったから、したんだ」

「……」

「また、不服そうな顔をするね?」

そう言われても、私は何も答えられない。言えることなんてない。うつむいて、早足で歩くばかりだ。それは何の解決にもならないけど。



「どうして欲しいのか、どう、して欲しくないのか、言ってくれなきゃわからないよ?」

「だから言ったじゃない!やめて、って!!」

私の赤い顔とは対照的な、病人みたいに白い彼の頬が恨めしい。子供扱いするような発言も、落ち着いてる大人みたいで、年の差や経験の差を見せられているようだった。


「君の表情を信じればいいのか、言葉を信じればいいのか、わからないよ!」

私の語気につられたのか、彼の言葉もいつのまにか荒くなる。Nの手が、私の手首を掴む。振り払おうと腕を振っても、青年の力に勝てるはずもない。

「どっちもよ!!どっちも私がしてるもの!」

「矛盾しているんだよ、君は!だのに、両方とも君の意思だっていうのかい?」
「…………」





そう、端から見たら私の行動は意味がわからないだろう。関係を進めたいと思っているのに、行動ではそれを拒んでいる。恥ずかしいから、照れくさいから、初めてでわかんないから。

「そうだよ!私は矛盾してるよ!Nが好きで、触れたいけど怖くて恥ずかしくて!抱き締められたのも驚いたし、キスはもっと素敵なときにしたい!」


なんでもない道は、通る人なんて誰もいなくて、草擦れの音だけがいやに響く。


「やっと、言ってくれたじゃないか。」

「え?」


「本音。」


自分が何を言ったのか思い出して、私は真っ赤になってしまう。
見られたくない、と思った瞬間、私はまた優しい腕に抱かれた。

「えっ、えぬ…!」
「わかったよ、トウコ。教えてくれてありがとう」

愛しむように、体に回された手に力がこもる。


「もっともっと、話をしよう。もうすれ違わないように。僕たちは」










  














「あんなに一方的に早口で喋ってた人の台詞とは思えないわ」

「まったく、君も口が減らないね。甘やかしすぎたかな?」

「もーっと甘やかしてくれていいんだよっ」

もう充分じゃないの、とNは笑った。










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