※エンディング後 私は、甘えることが苦手だ。 正確に言えば、「彼」に甘えるのが苦手なのだった。 「ねぇチェレンー、ねむけざましなくなっちゃったからさぁ、ちょっと分けてよー」 みんなのお母さん(?)チェレンに偶然出会ったので、女の子として可愛いおねだりをしてみた。 「何を言ってるんだ。君はそう言ってこの間あなぬけのひもをせびったばかりだろう!」 「だってーこの辺ショップないしーなくなっちゃったんだからしょうがないじゃん」 胸の前で手を合わせて、上目遣いのおねだりポーズ。 「知らない。眠りはほっとけば覚めるんだから、別になくたっていいだろ」 「ケチー」 チェレンはベルには甘いくせに、私には冷たい気がする。ベルは何も言わなくても、(言うこともあるけど) 勝手にチェレンが世話を焼くのだ。―それはつまり、そういうことなのだろう 幼なじみには簡単にお願いだってできる、無理も言える。けれど本当に言いたい我が儘は、私の心の中に閉じ込めているの。 あの日だって、そうだった。Nが私たちにさよならを告げたあの日、私は何もできなかった。 「行かないで」 「旅をしようよ」 「抱きしめさせて」 「あなたは悪くない」 いくらでも、言える言葉があった。意味不明な彼のことをやっと理解することができるようになって、分かりあいたい、唯一無二の存在なのだと自覚していた。 それなのに私は、「またね」のヒトコトも言えなかったのだ。 カノコタウンにいた頃は、一晩過ぎればまた会える幼なじみにも再会の文句を言って家に帰るのが当たり前だったのに。 それなのに、また会いたい、次にいつ会うかわからない大好きな人に、私は何も言えなかったんだ。 再会も誓わず、連絡先も知らず、わかっているのは他の地方にいるという噂だけ。 「さむ…」 ひんやりした夕方の風が海岸を吹き抜ける。彼が去ってから過ぎた季節を突き付けられた気分だった。 「えぬ。」 誰もいない砂浜なら、誰にも私の独りごとを聞かれることはない。ジャローダたちはもちろん聞いているのだろうけど。 「えぬ。さみしいよ。会いたいよ。」 「そう、言えばいのに」 空耳が聞こえた瞬間、突然目の前が真っ白になった。そして身体は視界の異常だけでなく、聴覚、触覚の異常を訴える。 大きな物が着地した轟音、衝撃の風圧が私の髪を蹂躙した。一度だけ、覚えがある感覚だった。 「久しぶり、トウコ」 白いドラゴンから、ラフな格好をした男の人が飛び降りる。見間違えるはずもない、焦がれたあの人だ。 「N!どう、して…?」 「さあ、なぜだろうね。イッシュに会いたい人でもいたんじゃないかな。」 「…あなたって、素直じゃないわ」 「そうかもしれないね。でも、伝わっただろう?」 その言葉が目に見える物でなくても、伝わりさえすればいい、とNは言った。 ポケモンと意志疎通ができるという、彼らしい言葉だと思った。 「うん、きっと伝わったよ」 つまりなんのことはない、私は甘えていたのだ。 言葉に出して伝えるべき言葉をなぜか隠して、気持ちを隠して隠して我慢できなくなって。 言わなくても察してくれと、私を見て、感じてくれ、と。 それは口に出すワガママより、よっぽどワガママだ。 「追われてるんでしょ?イッシュにいたら危ないわよ」 「今来たばかりじゃないか。君は寂しくないのかい?」 「心配してあげてるの!って、寂しくないこともないけど…」 だから、傍にいて。 「じゃあちょっとだけ、デートをしようか、トウコ?」 言葉にならないワガママを、彼はまた汲んでくれる。 ワガママを言えない、我が儘な私を、甘やかしてくれるのだった。 甘え下手な女の子の話 |