中篇 | ナノ

六章二節 【君の夢へ連れてって】



隙間風が、二人の間を通っているような気がした。
肌寒さにシーツを引っ張るが、隙間が大きくなって余計鳥肌が立つ。
薄暗闇の中手探りで温もりを探して、やっとその背に辿り着く。
その白い背は、暗闇の中でより一層白く映えた。
まるで雪膏のようなそれには、赤い亀裂が走っている。
緩く、紅葉のように広がるそれは、僕の手と形が似ている。
そっと、逆さまのそれに指を合わせた。
彼の肢体が雪のように溶けてしまうのではないかと不安になった。
空調のせいで皮膚の表面はひんやりと冷たかったが、その肉のうちが温かい事にそっと安堵の息を零す。
クッションに埋められたその巻き毛から、白い首筋が見える。
昨晩噛み付くようにつけた赤い鬱血痕が眼に入って、思わずまたそこに口付けてしまう。
耳朶のすぐした、骨の裏側につけたそれは、鮮やかさを取り戻して赤みを増した。
そのまま頭を上げて、髪に隠れた彼の顔を覗きこむ。
その鋭い眼光は頑なに瞼で閉じられていたが、そこから幾重にも涙の雫を流して、睫毛と頬を濡らしていた。
心なしか、短い寝息の中に聞いた事も無いような言葉が混ざっているような気がする。
何を言っているのか、解らなかった。
だけど、それが彼にとってどういうものなのかは解る。
苦しそうに寄せられた眉の間を指先で撫でるが、それでもその苦しみは取り除けなかった。
「……ロック、」
冗談で付けられた彼の愛称を呼ぶ。
「ロック、ロック?」
どうか返事をして、と願った。
「…ロック、オン…」
返事をして。
そしてその夢の中へ引きずり込んで。
(たとえ途方も無い絶望の夢だとしても)
同時に、どうしても彼のものになりきれないでいる自分が、とても憎らしかった。







多分ロック呼びを一度でいいから書いてみたかったんだと思う


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