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四章三節 【監獄要塞殺人事件】


アロウズ収容中アレルヤ話








また一人死んだ、と、一人の囚人が呟いた。
病死、衰弱死、自殺はここではよくある事で、その多くはこの要塞監獄に収容されている囚人たちが主である。
しかしここ数日、ある一人の男を収容してからそれらは覆された。
殺害事件。
最深部に隔離されている頭のイカれた捕虜が、拷問を執行する尋問官の咽喉元を噛み切るのだと他の虜囚たちが噂するのを私は耳にする。
中にはいいぞ、もっとやれ、全員噛み切っちまえとゲラゲラ哂う気の狂った囚人もいた。
薄暗闇の収容所内では刑務官達は怯え、次にやってくる晩をけして食われないように首を汚して待っていた。
私もその中の一人だ。
【猿轡さえ外さなければ死ぬことはない】
そう教えられても恐ろしいものは恐ろしく、口にしてはいけない三つの言葉が虜囚と看守の間にはそういった空気が流れはじめだした。
【ソレスタルビーイング】
【超兵】
【処刑】
そして恐怖に戦慄いて、ガシャガシャと枷を鳴らし一人、また一人死んだ。
ぼとり、挙句二つ咽喉笛が落ちて、金と銀の瞳を持つ狼が体中にコードと革締具を纏わせ暴れるのを、ついに私は目の前にした。
たった4本の牙で何が出来るというのだろう?
そう彼を甘く見ていた尋問官や極卒は息苦しそうに何かを呻く彼の猿轡を外してしまうのだ。
口にしてはいけない三つの言葉が交差する尋問部屋は赤く染められ、その度彼は拘束具で動きを遮られる。
それでもとうとう三人目の葬儀が行われて、薄暗い施設内はより仄暗く沈んでいく。
緑の正装を身に纏い、白い五角形の棺は海に投げ込まれた。
次は誰が。
軍人と看守が顔を見合わせて、やがて青白い光が訪れた。
それに気付く前にこの殺人事件は終わった。
時折こういう事はあるのです、と誰かが語る。
暗闇に飲まれ気が狂い、見境無く食い殺す悪魔が。
政治的重要囚人からテロリストが無差別に収容されている此処だからこそ、起こりうる殺人事件だったのだ。
例えそれが真実か虚構だったか、知り得るのはその場を目撃していた私達だけなのだと言う。
たしかにそこに【ソレスタルビーイング】に籍を置いていた【超兵】が【処刑】を待っていたと知るのは、後にも先にも私と生き残った看守、そして後にアロウズと呼ばれる軍人達だけなのだと、此処に記す。

今は彼のいないこの隔離拷問部屋は、白く塗り染められていた。
おそらく彼は今も誰かの咽喉元に噛み付いているのだろう。

10/05/25 UP



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