中篇 | ナノ

【寂しい海】


刹那とティエリア。ある二人を探しています。







北極海に近い、崖の荒屋に二人の青年が訪れた。
乱雑に屋内に入ると真紅の襟巻きを棚引かせた青年は、慎ましく並べられた写真を手に取り、在りし日の情景を思い出した。
「今、俺は笑えているか」と、連れに問う。
「其処に在る鏡に映せばいい」と連れの青年は返す。
ベッドサイドの小さな箪笥の上に写真はあった。
それらは一枚一枚丁寧に硝子で出来た写真立てに入れられていたが、長い長い年月の為に淡く日焼けしている。
しかしその多くが記憶にあるもの達で、僅かながらに昔を懐かしむ。
次第に笑顔になっていく写真達の中に、一枚だけ見知らぬ写真があった。
一番日に焼け、しかし一番大事そうに飾って在ったそれには、まだ硬い笑顔の、ここにはいない二人が写っていた。
ベッドの上には枯れ果てた向日葵が倒れている。
ここの家主は、何を想い、どういった気持ちで、此所で過ごしたのだろう。
沢山の向日葵で満たされたこの荒屋を、二人は後にする。
写真がそれを寂しく見送った。




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