バニラ、ストロベリー、それから
前回のあとそれからのお話です。

早春


冬が終わり、少しずつ空気が暖かくなった頃。
毛布をクリーニングに出して、とうとうその日は訪れた。
延期に延期を重ねていた約束事がついに、果たされる。
「しっかり体、温めて来いよ」
「う、ん……」
「俺の好きなあの入浴剤、使ってくれよ」
夕食を終えて、食器を洗うのはニールの役目だった。
少し甘ったるい香りのする入浴剤は、もちろんアレルヤも大好きなものだ。
特にその入浴剤で入浴を済ませた後のアレルヤの、立ち上る湯気の匂いがニールはたまらなく好きで、ついつい毎回買ってきてしまう。
湯船で嗅ぐと少し甘すぎる位だが、湯上りのアレルヤからはまるで乳飲み子のように、ミルクの香りに感じる。
(いつもしてる、シトラスみたいなコロンも好きだけど)
その匂いを想像しながら、ニールは別の意味で息を飲んだ。
同棲生活が始まって――再会してから半年という節目。
3か月ほど前にある事件が起きたりもしたが、ほんの些細なすれ違いでその後は順風満帆だった。
しかし改めて、ニールは覚悟をした。
今日、アレルヤを抱く。
ニールはそのつもりだ。
性的な繋がりを持たなくたって愛し合っている自信が何故かニールにはあったのだが、いつまで経ってもそのような事が無いため、アレルヤを不安にさせてしまった。
追い打ちを掛けるように、男同士であることに引け目を感じささせてしまった。
もちろんニールにもその引け目が無かったと言えば嘘になる。
そもそも男性相手というのがニールとって初体験で、どうすればいいのか解らなかった。
もしアレルヤが純粋に女であれば、抱いていてもおかしくないし、抱きたいとも思っていた。
アレルヤの勘違いであるなら、たかだか一時の感情に身を任せてその未来が潰えてしまうのはあまりにも不憫だ。
そう考えて、アレルヤが求めて来るのを待っていた。
求められさえすれば、きっと当時のニールならアレルヤに抱かれもしただろう。
アレルヤを愛しているから。
しかし、まだ関係にはまだ至っていない。
抱き締めあって共に眠るだけで満足していることが解れば、結果としてはすぐにそういった行為に及ばなかった。
しかし、したくないという訳では無い。
一応この三か月で色々勉強したつもりだ。
アレルヤが風呂から出るまで、ニールは今までの経験なんか全て忘れてしまったかのように、心を落ち着かせようとした。
自分が抱く側であるというのは、前回の件で恥ずかしながらもアレルヤにお墨付きを貰っている。
(というか、そう思いたい!)
最善の注意を払って。
愛しいアレルヤの為に、ニールには一切のミスは許されない。



ほかほかになっているアレルヤの体を後ろから抱き締めながら、ベッドの上でニールはドライヤーをかけてあげる。
しっとりとした髪に指を通して、根元まで乾くあたりで冷風に切り替え、指通りのいい艶のある髪の手触りを楽しんだ。
ドライヤーを片付けてまたアレルヤの後ろに座る。両足をベッドの下に降ろしているアレルヤは、体を傾けてニールの方を向いた。
ちゅ、と軽いキスが仕掛けられる。
普段はストイック過ぎる程純粋で、キスをするのも出来ないくらいのアレルヤではあるが、二人っきりの夜だけは必ずキスをする。
本当に唇が触れるだけのそれのあと、恥じらうように俯く。
「……アレルヤ、」
「も、もう寝ますか?」
普段ならまだ、二人でリビングでゆっくりテレビでも見ている時間だ。
薄々感ずいているのか、いつもより恥かしがっているようにも見える。
「アレルヤ」
顎を持ち上げ、再度口付けた。今度は深く、ニールから舌を差し込む。
拒むように歯をくいしばっているのかと想像していたが、薄く開かれ受け入れる。アレルヤの咥内で二人の舌が絡められ、ちゅくちゅくと微かに水音が漏れた。
自分のフレンチキスが上手であるかは解らないが、アレルヤとのキスでこんなに深くまで出来るようになったのは、流石に六か月分の教育の賜物だとニールはキスの合間に少し口角をあげる。
(俺の方が食べられてるみたいだ)
差し込んだ舌で上顎をなぞれば、アレルヤから声が漏れる。
その声がにアレルヤの目がはっと拓いて、その肉厚な舌でそこに触れさせないように妨害し始める。
ニールの動きを邪魔する舌を絡め取って吸い出してみた。
ちゅる、と今度はアレルヤの舌がニールの咥内に誘われたかと思えば、吸うだけ吸って空中でそれは終わってしまった。
はぁ、はぁ、と荒い息があがる。
口の端から伝う唾液を拭おうとするアレルヤの手首をニールは掴んでそれを阻止する。
啜るようにして舐めとり、そしてまたキスをした。
キスをしやすいように自然に首を傾けるアレルヤがとても愛しく映り、キスをしながら無意識に頭を撫でてしまう。
形のいい後頭部から滑るようにして背中に手を回し、もう片手でシャツのボタンを外す。
「あ……ちょ、ちょっと待って……?」
アレルヤのシャツに手を掛けたところで、静止の声があがった。
もちろんアレルヤの嫌がることをするつもりはないので、大人しくニールはその待て、に従う。
「女の人みたいには出来ないけど……でも、貴方を気持ちよくさせることくらい、僕にだって」
そう言ってアレルヤは、ニールのスラックスに手を掛けた。
はた、とニールの思考が止まる。
「ああああ、アレルヤ!?何を……ッッッ」
「僕が貴方に気持ちよくなってほしいんです」
やわやわと急所であり、性器でもあるそこを揉みしだかれて、ニールは気を取り戻した。
「待てって、アレルヤっ」
まるで恥ずかしさを誤魔化すように一心不乱に擦り上げ、絶頂を迎えさせようとアレルヤは下着の上からそこを刺激する。
息の詰まるニールの声が、アレルヤの耳を掠めた。
アレルヤの手の動きに合わせびくびくと鍛えられた腹筋が動くのが自分でも解った。
「きもちよくない……?」
ただ擦り上げるでは駄目なのかとアレルヤは困惑する。
誰かにされたことも、もちろんしたこともない。
だから不安で不安でアレルヤはたまらなかった。
困り果てて、アレルヤは顔をあげる。
その瞳はうっすらと涙を溜め、眉は切なげに寄せられていた。
そっと、頬に手が伸ばされる。
髪に指を差し込んで、ニールはその頬を撫でた。
そしてその耳元に唇を寄せる。
「すぐにでも……イッちまいそうだ、だから、」
そう言いながらニールはアレルヤの涙も唇で拭い、抱き寄せた。
「俺も、アレルヤの……させて?」
「それはだめです」
涙目のアレルヤから、とても辛辣な言葉が出る。
(あれ?)
そういう雰囲気ではなかったのか、と拍子抜けしてしまう。
しかしここまで進展して引き下がる訳にもいかず、抱き寄せたアレルヤの腰を掴んだ。
鍛え上げられた肉体の割に細いと思ってしまう程であるが、抱き寄せるとしっかりと自分の腕に馴染むようで心地くニールは感じる。
ニールはアレルヤの下肢へと触れれば、薄い生地から微かに熱を帯びていて、その掌に当たる固い感触をニールは楽しむ。
「や、だめですって……!」
(嫌とは言ってないから、続行)
それに既に固くなっているという事は、肉体的には快感になっているはず。
それに調子に乗って、ニールはアレルヤのものを布越しにいたぶった。
(いや、って、言うまで、)
セーブ出来るかなあ、と一瞬脳裏に過ぎったが、興奮しきった頭ではすぐにそんなことは何処かへ行ってしまった。
「前に言ったろ?俺の大スキなアレルヤだから、って……」
腰に回していた手を服の中に滑り込ませる。
全ての言葉をアレルヤの耳から直に流し込んで、その耳朶を喰む。
「っ……でも、でも……!」
だめ、という理由はなんとなく察しがついていた。
恥かしがっているのもあるだろうが、まだ男同士というのが引っかかっているのだろう。
「気持ちいいんだろ?」
固くなった所と、柔らかいままの所。ふにふにと優しく揉んでみる。
「あ、あなたのと……全然違うから、」
「?そりゃあ、そうだろ。俺とアレルヤ、髪の色とか、体重も違うんだし。手だって、俺の方が大きい」
身長はアレルヤの方が微かに大きいが、手はニールの方が大きい。
「知ってるか?指をぐっと広げて、親指が10代、人差し指が20代、中指が30代……って下がっていくんだって」
「……?」
手持無沙汰だったアレルヤが、不思議そうに自分で手を握ったり開いたりする。
「どういうことですか?」
「勃起角度」
一瞬ぽかん、とした顔でニールを見上げたかと思えば、意味を理解してすぐにその顔が赤くなる。
「アレルヤはまだ20代だから……じゃあ、これくらいかな……?」
拓いたままのアレルヤの人差し指をつまむ。
その手を握って持ち上げ、ぱくり、と口に含んだ。
性器と称した指をなめられて、アレルヤの顔はリンゴのように真っ赤になっていく。
「……さ、さすがに指よりは……」
「ん?」
ぽろりと言葉を零して、アレルヤはしまったという顔でもう片手で口を塞いだ。
「早くしないと、俺のがジジイになっちまう」
「こ、コンプレックス……なんです……」
アレルヤの言葉を聞く前に、ニールは下衣を下げようと手を伸ばした。
「この間の話とは、別のベクトルで……」
「うん?どんな理由だよ」
「…………笑わないで、くれますか?」
……アレルヤのコンプレックスとは、一体何だろうか。
特に想いたる節が無い。
あるとすれば、女性関係、くらいだが。
それについてはあまり触れないでいたので、笑わないとだけ言って頷いた。
指を掛けただけのズボンを下着ごとアレルヤはゆっくり引き下ろす。
微かな茂み。年の割には薄い方だと思う。
自分もたいして体毛が濃いタイプではないが、アレルヤは毛色が黒なのでそれを考慮すれば、毛質も細く、まるで10代の……
「ああ、ずいぶんとまあ、可愛い」
ゆっくりと姿を現したアレルヤの性器は、それこそティーンズのように色素が薄い。
しっかりと勃起しているが、先端は皮が余っていた。
半分泣きかけで、アレルヤは両手で顔を塞いだ。
ニールにとってそれは愛しいアレルヤの身体なので、触れたいとも思うし、愛してあげたいと思う。
いやしかしだからって、切り落とせは無理な相談だろう……とニールはアレルヤのかつての訴えを思い出して、少し眩暈がした。
「ニール!?なにしてっ……!」
「まるっきり初めてなんだなあ、お前さんは」
小さな亀頭をぱくりと咥える。
考えを反転してみれば、確かにあのうぶさは童貞のそれだったかもしれない。
凶悪殺人犯と言われた程であるのに、些か純粋過ぎるのではないか?と思うが、純粋であるが故にあのような暴挙に出たのだろう。
(例の彼女には悪いがアレルヤの純潔は俺が頂く。何処で何しるかも教えない。弟さんと宜しくやってくれー)
少々下世話な事を考えながらニールはさらに気を良くして、一度口を離してアレルヤをベッドの上へ横たえた。
そしてもう一度ペニスを口に含む。
キャンディのように舐める時もあれば、咥内へと出し入れを繰り返す。
ゆっくりと唾液を絡ませながら根元へと向かい、アレルヤの薄い陰毛に鼻先が触れた。
「ひゃ、ぁ……歯が、」
はむはむと、根元を甘噛みする。
あんなに切り落としてくれと言っていたのに、やはりそこは男の急所でもあるからなのだろうか、アレルヤの表情は快楽から恐怖へと変わった。
「噛み切ったりしねえよ」
喉からずるりと引き抜いて弁解する。
余った皮膚の先端の割れ目から軽く白い液体が溢れた。
この液体は普段見慣れ、嗅ぎ慣れたもので、こんな味がするのかと初めての知った。
しかし、アレルヤのものと思えばどんな美酒よりも馨しく、そして甘い蜜のように思える。
口に含んだ当初はまだ柔らかだったアレルヤのそれは熱を持って膨張し、随分硬くなったがそれでもニールの大きな片手で事足りる。
そういえば囚人の時に何だったかで水着姿を見た覚えがあるが、思い返せば綺麗なものだった。
その体が今、この手の内で翻弄されている。
「んっ……は、だめぇ……気持ち悪くない……?」
まだそんな戯言を言うのだろうか、この子は。
少しばかり呆れてしまう。
今日まで少しばかり不安であったのはニールもだった。
この子の心の暗闇を一体どうやって取り除く事が出来るだろう。どうすれば、安心してくれるのだろう。
男としての本能が、それは体を重ねる他に無いと訴えている。
「あっ、あぁん、ニールっ、ニールぅ」
ちゅぷちゅぷと水音が響く。
アレルヤは他人による初めての愛撫になす術も無く、ただただあられもない声をあげていた。
その声に自分で気付いて、両手で口を押える。
あんまりにも過敏過ぎて、ニールは虚をつかれたような顔をした。
「まさか……オナニーもした事無いのか?」
「……なぃ……ぜんぶ、にーるが、はじめて……っ」
(ピュア過ぎるだろう!こんな、こんな……)
アレルヤを抱く、確固とした意思がどんどん揺らぎ始めて来る。
(初めてなのか、初めてならもっと優しく……優しくしねえと……!)
今までどうしてきたか不思議に思う程、アレルヤは無垢だった。
「……ッ声、我慢しなくていいから……」
口元を一度拭い、もう片手で口を押えるアレルヤが手を噛んだりしないように遠ざける。
手で優しく擦り上げれば、震える腕を首の後ろに回される。
「……っあ、そんな所も……?」
「感じる訳ないよな。嫌だった?」
首筋に口付けながら、もう片手でシャツの下から差し入れて胸に触れる。
男性特有の筋肉のそこは、上質に鍛え上げられていて程よい柔らかさも兼ね備えていた。
緊張をほぐすようにそこを揉みしだく。
「ニールが触りたかったら……」
アレルヤの腕がニールの首に回されて、口付けられた。
アレルヤの言葉にニールはそこをふにふにと揉む。
赤く尖った先端も、指先でころころと転がしてその感触を楽しんだ。
「ふ、ぅうん、……ぁ、なにか、くる……ぅ」
少し無理な体勢だが、もう一つのしこりは口で愛撫した。
ペロリと舐め上げてみるとどうやらくすぐったかったのかアレルヤは腰をよじる。
「ん……イきそう?」
「や、わかんな、」
またアレルヤはぼろぼろと涙をこぼす。
「こんなの、なったことない……ぼく、普段くすぐりっこも平気なのにぃ……」
ガクガクと足が揺れ始める。足指でシーツを掴んで、爪先立ちになっている。
「解った、一回イけ。辛いだろ」
胸を揉んでいたもう片手も下げて、皮越しの亀頭部分を優しく包むようにして揉み込む。
くにゅくにゅとしたそれの感触を確かめながら、ゆっくりと引き下げると、ひ、と軽くアレルヤが悲鳴のような声を漏らす。
ピンク色の先端が徐々に姿を現し始める。
根元まで引き下げて、少しばかり大人らしい形状になる。
その先端を今度は直に触れた。
「いひゃぁっ!やっ、だめぇっ!へんになる……!」
ぷにぷにとした感触のそれを指先で転がしてやればアレルヤの足の揺れは大きくなり、絶頂が近いことが目に見えて解った。
「クリクリしちゃ……っひゃめ、っひ、にーる、ぃい、らめ、にーるぅっ!!」
大きく首を仰け反らせてニールの名を呼んでアレルヤは吐精する。
叫びだしたかと思えば、あっという間の絶頂だった。
はぁはぁと荒い息のまま、アレルヤの体から力が抜ける。
くたっと汗だくで、爪先立ちだった足も投げ出された。
ただニールの首に回された腕だけが、今もしっかりとニールを抱きしめている。
男性の射精による快感は一瞬だ。
出されたアレルヤの精液を、ニールはその奥へ塗る。
「っえ!?ニール、何を……」
「……前にアレルヤ、言ったよな?俺の女にして、って……」
ニールの顔に、アレルヤは息を飲んだ。
発情しきった雄の顔だった。
さっきまでいつもの、優しいニールの表情が一変した。
だがそれもそうだろうとすぐアレルヤは悟る。
今のような快感を、ニールは既に知っているのだ。
知っていて、それでもなお自分を求めてくれている。
「……は……い……っ」
その言葉の意味を理解するまでは、アレルヤの頭はまだ溶けていたようだった。
ニールも興奮で、ついさっきまでの優しくしたいという気持ちがどこかにぶっ飛んでしまっていた。
「っふひゃっ!?」
ぐちゅりと音を立てて、アレルヤの中へとニールの指が一本、侵入を果たす。
ゆっくりと指を掻き回す。内側を探るようにして、時折軽く引っ掻くようにして指が曲げられた。
「あ……あ……っ」
指を差し込まれて、女にしてという言葉が、女のように抱いてくださいと言っていた事だったのだとアレルヤはようやく気付く。
恥かしさで死んでしまいそうだった。
しかしそんな誤解も、今は幸福感を感じさせる魔法になってしまっている。
女にされる……ニールの表情を見て、求められる喜びを既に理解してしまっている。
あとはそれを実行するだけなのだと思えば、恐怖感は無かった。
「ん……はっ ぁ、」
一度ニールの指が引き抜かれる。長さが足りなかったのか、中指が今度は挿れられた。
くりゅくちゅという水音が淫らに聞こえる。
「っくぅ……、ふぁ、んぁっ、」
ぐり、と指がある一点を掠めた。
小さなアレルヤの声を聞いてまたニールが指を引き抜く。
二本なってまたそこに押し込められる。
中指で一点を押し上げながら、もう一本はひだを解かすようにして動かされた。
息がもう止まってしまいそうなほどニールの息は短くなっている。
息を吸っているのか吐いているのか、自分でも解っていない。
「……いいか、俺のものになるってことなんだぞ」
「わかってます……っ」
考える余裕も無いまま吐き棄てた言葉に、アレルヤも素直に言葉を返す。
指を全て引き抜いて、ニールはついに蕩けたそこに、自身を少しずつ埋めていった。

⇒夏編へ(後日追加)

2015.129

prev / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -