知らないあいつの知らない匂い
目の前で落ちたハンカチを拾い上げると、女の匂いがした。
厳密に言えば交際経験もない、そもそも異性を好きになった経験すらない自分が女の匂いなんて知るはずもないのだが、あくまで比喩だ。香水かなんなのか知りはしないが、女がよく身に着けていそうな匂いというだけ。
『ありがとう、日吉くん』
そんな、普段全く身近ではないそれに気を取られていたせいで、ろくすっぽ相手の顔なんか見ないまま、そのハンカチは俺の手を離れていった。
その日の夜、俺は珍しく夢を見た。
普段から寝つきはいい方だし、一度眠りに落ちればすぐ朝が来る。夢を見ることは稀だった。
そこはただただ何もない薄暗い空間。そこに、俺は制服姿で立っていた。
辺りを見回すと、二メートルほど離れた場所に誰か、いた。
「お前、誰だ?」
返事はない。眉根に力を込めて、出来るだけピントを合わせてみる。
そいつは、氷帝の制服を着ていた。女子の。
顔は、見えなかった。遠くて見えなかったのではない。何か、黒い靄のようなもので覆われていて、見ることができなかった。髪型すら分からなかった。
その風貌は実に気味が悪かったが、不思議と不快感は感じなかった。その理由はすぐに分かった。
その女と思われる人物からは、今日の昼に匂った、あのハンカチの香りがしたからだった。
翌日の休み時間、俺はいつものように本を読んでいた。
その時、俺の座っている席と隣の席の間の通路を誰かが通った。そいつが通って吹いた風とともに、例のあの匂いがふわりと香る。
思わず本から顔を上げて後ろを向くと、同じクラスの〇〇がいた。
あいつか。
背中、そして友達と話す横顔を見ても、俺はその程度の感想しか思い浮かばなかった。〇〇のことが嫌いなどという話しではない。ただ俺にとっては、それ以上でもそれ以下でもないというだけだった。
その日の夜、また夢を見た。
昨日と同じ、何もない薄暗い空間。そこに、俺はまた制服姿で立っていた。
辺りを見回すと、二メートルほど離れた場所に、やっぱりいた。
今日は昨日のように話しかけることはせず、ただその女と思われる人物を観察した。
そいつは、昨日と同じように氷帝の制服を着ていた。
そして、首から上へとゆっくり視線を移す。
そこには、昨日と違った景色が見えた。
「〇〇」
今日学校で〇〇からあの匂いがした時から予想はついていた。
昨日時点では、あのハンカチの持ち主が誰か曖昧だったため顔が見えなかったのだろう。
〇〇は俺を見て、『ありがとう、日吉くん』と目を細めた。
最初、何がありがとうなのか分からなかったが、すぐにあのハンカチのことだと気が付いた。
これは、あの時の記憶を繰り返しているのだろうか。なかなかに興味深い。
「お前、何で俺の夢にいるんだ?」
これは率直な疑問だった。
俺と〇〇は特段親しいわけでもない。むしろ事務的な用事以外で会話したことなど、思い出せる限りほとんどない。そんな彼女が、何故。
先ほど考えたように、ただ日々体験した記憶を辿っているだけかもしれない。
しかし、もし。〇〇が俺に、何か伝えたいことでもあるのだとしたら?
それが、巡り巡って俺の夢に現れた。生霊なんかに近いかもしれない。
そんなことを考え高揚してきた俺とは反対に、〇〇は先ほどと同じ笑顔を顔に張り付けたまま、一言も発さずピクリとも動かない。
「おい、何か……」
次の瞬間に見えたのは、自分の部屋の天井だった。
寝起きでまだ動かない頭の代わりに上半身を起こして周りを見回してみる。当たり前だが、特に何の変哲もない自分の部屋。
夢か。
普段なら何の気にもしないのに、続けて同じような夢を見れば引っかかりもする。
それに何より、離れてくれないのだ。あの匂いが。目覚めて顔を洗って、味噌汁の風味を味わった後の今でも。
女の匂いが。俺の鼻から、脳から。どんなに息を吐いても、他の香りを吸っても。俺の中から、なかなか抜けてくれない。
今日は、いつもは気にならない教室の喧騒が、やけに耳に入る。
『近いうちに雪でも降るかな? 雪ってなんかわくわくしちゃうよね!』
『寒いからミルクティー買ってきちゃった』
『次の授業なんだっけ……眠いなあ』
全て同じ声だ。
昨日、夢で俺に礼を言ったあの声。
今まで意識したことはなかったが、どうにも〇〇の声はよく通るようで、騒がしい教室内でも俺の耳に入ってくる。
夢の中では全く喋らないのにな、と少し可笑しくなる自分の頭の方がよっぽどおかしいのは分かっている。
それでも、こう続けて夢の中に現れてくれては、多少親近感がわくのも致し方ないだろうと。未だ鼻腔にこびりついた匂いを感じながら、俺は目の前の本に視線を落とした。
その日の夜、俺はまた夢を見た。
『今日は、いつもより遅かったね?』
辺りを見回して、二つ驚いた。
一つは、昨日まで何もなかったただ薄暗い空間が、昼の教室へと姿を変えていたこと。
俺は教室の一番後ろ、廊下へ続く扉の前に立っていて、その反対側である窓際に、彼女はいた。
そして二つ目は、俺が風景が変わっていた驚きによりワンテンポ遅れて〇〇の顔を確認しようとした瞬間、昨日まではありがとうの一言しか発さなかった〇〇が、そう俺に話しかけたのだ。
驚きで言葉に詰まっていると、〇〇は俺へと一歩、音もなく踏み出した。
一歩、また一歩と、〇〇は俺に近づいてくる。そのたびに、彼女の顔が鮮明になっていく。
恐怖なのか、はたまた不思議な体験による期待感なのか。自分でも分からないが、〇〇が近づくにつれて俺の心臓がドクドクと騒ぎ出す。
教室の半分近くまで、〇〇が俺との距離を詰めた。ごくり、と音を鳴らして唾を飲み込んだ時、〇〇の歩みが止まった。
そして、
『今日は、いつもより遅かったね?』
再び彼女は目を細めて、俺にそう問いかけた。
「……なかなか寝付けなかっただけだ」
『そうなんだ』
「ああ」
不思議な気分だった。
現実ではプライベートな話しなんてほとんどしたことないのに、夢では世間話か。
『寒いね』
「そうか?」
『うん、寒いよ。雪、降らないかなあ』
「そういえば、雪が好きだって言ってたな」
『うん! 好き』
好き、という単語に、胸がどきりと跳ねた。
別に俺に言っているわけではないと分かっているが、〇〇はいつもの笑顔を変わらず顔に張り付けたまま、不自然なくらいにずっと俺の目を真っ直ぐ目つめて話しかけてくるのだ。
『寒いね』
「そんなにか?」
『うん』
夢だから、話しの脈絡なんて気にしないが、〇〇がずっと寒がっていることは気になる。俺は特に寒さは感じないのに。
まあ、寒がっているとは言っても、特に体を震わせたりしているわけでもなく、ただ俺の目を見ながら言葉を口にするだけ。本当に寒がっているのかすら分からない。
しかし、そうしつこく言われると無視もできない。エアコンを入れた方がいいか、と思った時、今日の日中、耳に入ってきた会話を思い出した。
ミルクティー。
そう思った瞬間、俺の制服のポケットにずしりと重みが増した。
探ってみると、熱くて思わず手を引いた。次は気を付けてゆっくり手を差し込んで、それをポケットから取り出した。
『あ! ミルクティーだ!』
ここにきて、初めて〇〇の表情が変わった。
張り付けたような笑顔から、もう少し柔らかい、自然な表情に。
「いるか?」
『いいの? ありがとう!』
〇〇にミルクティーの缶を手渡そうと一歩踏み出した。
次の瞬間、俺の視界に広がったのは、見慣れた天井だった。
「……くそ」
何に対しての苛立ちかは、自分でも分からなかった。
俺は基本、甘いものに興味はない。
嫌いなわけではないが、そんなに好んで摂取もしない。
しかし、夢のせいだろうか。今日はなんとなくミルクティーが飲みたくなり、自動販売機の前に来ていた。
お金を入れ、いつも押すお茶のボタンを通り過ぎ、想像するだけで甘いそれが受取り口に落ちた。
これ全部を飲み切れるだろうか。手に取ってから若干の後悔をしながら後ろを向くと、あの匂いが鼻を掠めた。
缶のラベルから視線を上げると、俺のすぐ後ろに、〇〇が順番待ちをしていた。
夢で見る人物が目の前にいるというのはなんとも不思議な気分で、思わずじっと見つめてしまった。
夢とは違い、きちんと人間の気配を感じる。表情も、あの違和感のある笑顔ではなく、無数の表情筋が作り出す、血の通った人間の表情。
黙ったままの俺の視線を不可解に思ったのか、〇〇は少し困ったような表情で『どうしたの?』と呟いた。
「……いや、何でもない。悪かった」
夢と現実を混ぜてどうする。
いくら向こうで親しくなったところで、こちらでは前と同じ、教室内ですれ違うだけの関係だ。
だから俺は一言謝罪し、いつものように〇〇の横を通り過ぎようとした。
微かにだが、あの匂いがした。
この匂いも初めは物珍しかったが、随分慣れた。実際は三日ほどしか経ってないが、夢でもその匂いを嗅いでいるんだから当然だろう。
しかし、夢での記憶にここまで感情が引っ張られるなんて、俺も疲れているのかもしれない。夢を見ている時は熟睡できていないと言うし、睡眠不足でちょっとおかしくなってるのかもしれない。そうだ。
「お前、寒いのか」
『えっ?』
「……」
『えっと……まあ、うん……寒い、かな?』
「そうか」
『……日吉くん?』
「これ」
『ん? ミルクティーがどうかしたの?』
「……やる」
『え?! 何で?! 日吉くんが買ったんでしょ?』
「間違えて買ったんだ」
『で、でも……』
「いいから、早く受け取れ」
『えっと…………あ、待って! いいこと思いついた』
「なんだよ」
『私が日吉くんの飲み物買うから、それと交換しない? それなら、日吉くんだけ損しないでしょ?』
「別に、俺は何もいらないんだが」
『でも、何か飲みたかったからここに来たんでしょ』
今まさに嘘をついてまで渡そうとしているミルクティーを買うためとは言えず、言葉を奥歯でぎりりと噛み締めた。
その間に、〇〇は自動販売機に硬貨を入れる。
『日吉くん、どれがいい?』
ミルクティー以外のことを考えてなかったため、数々の商品に視線が泳ぐが、とりあえずは先ほど通り過ぎたお茶を頼む。
しゃがんで受取り口から小さなペットボトルを取り出した〇〇は、それを俺に向かって差し出した。
『はい、どうぞ』
「ありがとう」
俺も、手の中で随分と温くなってしまったミルクティーを差し出す。
買い換えた方がいいかと思ったが、受け取った〇〇はその缶を両手で包み込み、『ありがとう』と嬉しそうに微笑む顔を見て、何も言えなくなった。
夢で見た笑顔とは違う、ふわりと柔らかそうな笑み。思わずそれに釘付けになった。
『日吉くん……?』
〇〇の声ではっとなった時、俺の右手は宙で止まった。
所在ない手はポケットへと隠し、お茶の礼だけは残して、俺は足早にその場を立ち去った。
ポケットの中で握りしめた手は、一体どこへ向かおうとしてたのか。
お茶を握った左手が、やけに熱く感じた。
いつもの夢だ。
何故続けて同じ夢を見るのかとか、そもそも何故急に夢を見始めたのか。
興味深いことに変わりはないが、深く追及するほどの熱意ももうなかった。
ほとんど日常と化したそれは、俺が考えたところで分かるわけもないだろう。そんなものに、時間を割く気はない。研究者にでも任せておけばいい。
俺が考えるとすれば、一つ。
何故夢に出てくるのが〇〇なのかということ。
これだけは、研究者に任せても解決してくれないだろう。
分かるのはきっと、俺だけ。
そう、目の前で俺に向かって微笑む〇〇を見て思う。
昨日は教室の半分までだったのに、今日は歩みを止めることなく、俺の目の前まで彼女は歩いてきた。
「昨日と今日で何が違うんだ?」
『何が?』
「昨日より近い」
目をぱちくりとさせ、『そうかな?』と首を傾げる〇〇に無駄なことだと悟る。
分かっていたことだが、〇〇は答えを知らない。俺が考えるしか、道はないらしい。
『はい、日吉くん』
ぐるぐると頭を悩ませていると、急に〇〇が目の前にペットボトルに入ったお茶を差し出してきた。
『座って飲もう?』
〇〇は最後列にあった机を指さし、にこりと微笑んだ。
ただの背景だと思っていたが座れるのか、と驚いてる間に、〇〇が席を二つ、隣り合わせにくっつけた。
はい、と椅子を引いてくれる彼女に従い、誰とも分からない奴の席に座った。
続けて隣に座る〇〇から、あの匂いがふわりと香る。
『ほら、こんなのもあるよ』
そう言って座っている机の中から〇〇がごそごそ取り出したものを見て、思わず吹き出してしまった。
〇〇が手に持っているのは、個包装されたいくつかのぬれ煎餅だった。
「何でそんなものが机の中にあるんだよ」
『だって日吉くん、好きでしょ?』
何が『だって』なのかは分からないが、これは夢。深く考えた方が負けだ。
ありがたくぬれせんを受け取り、二人でそれを口にする。
夢の中だが、きちんと味がする。しかも、いつも俺が家で食べている馴染みの味だ。
「美味いな」
『うん、すっごく美味しい』
考えても無駄だと分かっているが、本当に不思議だ。
最初に夢で見た〇〇に現実感を感じることはなかったのに、今隣でぬれせんを食べる〇〇は本当にそこにいるような、きちんと人間の気配がした。
日に日に強くなる彼女の存在感に、いよいよ夢と現実の狭間が曖昧になりそうだった。
「なあ」
『ん?』
「何でお前は、俺の夢に毎日現れるんだ?」
もちろん、無駄だとは分かっている。これはただの世間話で暇つぶしだ。
俺の質問に、〇〇は一瞬だけ動きを止めて、そして、目を細めて答えた。
『日吉くんが、そう望んだからだよ』
目が覚めた時、俺の心臓はバクバクと脈打っていた。
何度冷水で顔を洗っても、飲みなれたほっとする味噌汁を飲んでも、俺の動揺が収まることはなかった。
夢であいつは言っていた。
俺が、そう望んだからだと。
そんな訳あるか。普段ほとんど話したこともないのに、何で俺がそんなことを望む? いい加減なこと言いやがって。
休み時間、今日もよく聞こえる〇〇の声に理不尽にも腹が立って、俺は席を立った。
トイレに行って鏡を見てみると、そこに映った自分がなんとも情けない顔をしていて、余計に腹が立った。
それから今日一日は、なるべく〇〇の声を耳に、姿を視界に、そして、匂いを鼻に入れないよう過ごした。
そのおかげか、放課後になる頃には随分腹の虫も大人しくなっていた。
部活にいる沢山の目聡い人たちに何も言われなかったということは、客観的に見ても大丈夫ということだろう。
落ち着きを取り戻した頭で昨日の夢について考えたが、夢に出てきた人物の言うことを真に受ける方が馬鹿だと結論付けた。
俺は布団に入りながら、今日の夢では〇〇に馬鹿なことを言ったことについて文句を言おうと決めていた。
そう思いながら瞼を閉じた。
そして、次に瞼を開いて目に入ったのは、外から入る朝日に薄く照らされたいつもの天井だった。
必死に記憶を探るが、どれだけ思い出しても今日の夢の記憶は出てこない。
数日間当たり前のように夢を見ていたために忘れていたが、俺は本来夢を見ることは少ない。むしろ、夢を見る方が珍しいことだったのに。
一日夢を見なかっただけで、こんなに物足りなさを感じるのは何故なのか。熟睡できたはずなのに、いつもよりスッキリしないのは何故なのか。
自分の感情が分からぬまま、いつも以上にけだるい体を布団からのっそり持ち上げた。
朝の鍛錬が終わり、制服に着替えて朝食の席に着いてから気が付いた。
なるほど、土曜日か。
からかってくる兄が鬱陶しくて早めに朝食を切り上げ、自室へ戻った。
重い息を吐く。
俺は疲れてるのだろうか。だったら、今日が休日でよかったのかもしれない。いつもと違うトレーニングでもして、気分転換でもしてみるか。
脳内でトレーニングメニューを組み立てながら着替えると、余計なことを考えないためか、少しだけ気分が軽くなる気がした。
その日は、心地よい疲れとともに眠りに落ちた。
布団に沈む体が気持ちよかった。精神的にも安定している。溜まっていた疲れも、随分取れてくれるだろう。
そう期待できるような入眠だったはずなのに。
瞼を開いて最初に見えた薄暗い天井に、理由の分からないフラストレーションを感じた。
いや。正確には分からないのではなく、認めたくない、が正しいか。
それを認めてしまえば、引き返せない領域に足を踏み込んでしまうようで恐ろしかった。その先自分がどうなってしまうのか、考えるのが恐ろしかった。
しかしここまでくれば、もう見て見ぬふりはできなかった。嫌でも見えてしまう。
……俺はどうやら、あいつの出る夢を見ることを望んでいるらしい。
これはもう、どう言い訳しても、目を逸らしきれない事実だった。
月曜日、学校でいつも通りの〇〇を見た時、何故だかひどく安心してしまった。
夢で会ってないだけなのでどうということはないに決まっているのだが、それでも。久しぶりだと、元気で良かったと、思わず肩から力が抜けた。
「おはよう」
こんなこと、今までなかったからだろう。〇〇は目をまん丸くしながら、たどたどしく返事を返した。
最初は自分自身どうなることかと思ったが、一度認めてしまえば意外と心中は穏やかだった。
夢で〇〇に会いたい。それはもちろん、現実でも同じ。
現実より夢の方がまともに話す程度の仲なのに、何故会いたいと思ってしまうのか。
推測とはいえその先を言葉にするのは流石に参ったが、その言葉はストンと胸に落ちてしまったのだから仕方ない。
「俺、お前が好きかもしれない」
『……嬉しい』
現実でも、こうやって微笑んでくれるだろうか。
重ねてみた手からは、一切の温度、感覚すら感じない。
〇〇のいる気配、あの匂いだって、こんなに近くから感じるのに。
「この夢も、いつかは醒めるんだろうな」
『覚めても、明日の夢でまた会えるよ?』
「……ああ、そうだな」
所詮、全ては夢だ。
「なあ。実際のお前って、どんな奴なんだ?」
そんなことも分からないのに、好きだと思ってしまう自分は愚かだと思う。
俺の言っている意味が分からないと首を傾げる〇〇の手を更に強く握ってみるが、やはり何の感覚もない。
「……そうだな。ちゃんと、自分で確かめてやるよ」
視界に見慣れた薄暗い天井が広がった。
甘い夢は、いつかは醒める。
そんなの分かってる。
でもな。生憎俺は、夢を現実にしようともがくことは得意なんだ。
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