N.W.D -稲妻11別館-


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犬しゅうやと猫ゆうと 2


 たった、と軽やかに階段を上がって行く鬼道の尾が豪炎寺を誘うようにゆらゆら揺れる。
 さらに一段、たんと上がったところで、早くおまえも上がってこいというように鬼道が振り返る。
「豪炎寺」
 ニャ、と楽しげにゆらりと尾を揺らされて、けれども豪炎寺は興味ないと言わんばかりにふいと顔を背けて階段の下で丸くなった。いかに鬼道の誘いであっても乗りたくないものはある。それは種族としての本能のようなもので明確な理由はなかったが、全身が上に向かうことを拒否していた。
「豪炎寺」
 鬼道が仕方なさそうに上ったときより軽やかに、たっ、と豪炎寺の脇に下り立つ。
「こんなところよりも上の方が風も気持ちいいから、昼寝にもってこいだぞ」
 けれども、ニャァと顔を舐められても、豪炎寺はふい、とさらに顔を背ける。
「豪炎寺?」
 追いかけるようにぺろぺろと顔を舐めていた鬼道が、反応のない豪炎寺に拗ねたように、ニャ、と丸めた手を豪炎寺の顔に振り下ろした。
「……っ痛」
 実際には言うほど痛くはなかったが、条件反射的にわふ、と豪炎寺は鳴き声を上げる。
「寝るならここでも大丈夫だ」
「オレは上の方がいいんだ」
 譲る気はないらしい鬼道が、つれない返事に対して不機嫌を隠さずに顔を逸らすと、やれやれと言う風に豪炎寺が身を起こした。
 やっと行く気になったか、と嬉しそうにニャァと鳴いた鬼道の一瞬の隙をついて、豪炎寺は自分より一回り以上小さい身体を抱き込むように抱えると、もう一度うつ伏せになって身を丸める。
「おい」
 ニャニャ、と鬼道が焦り気味に声を上げたのも気にせず、豪炎寺が、ぺろりと鬼道の耳を舐め上げた。
 ニャッと上がった驚きの混じった鬼道の声に満足そうに目を細めると、豪炎寺はさらに耳の付け根に舌を這わせる。
「豪炎寺っ!」
 ニャッニャッ、と暴れようとする鬼道の身体をぎゅっと押さえつけた豪炎寺が歪めた口許にキラリと鋭い犬歯が覗く。
「上でも下でも鬼道の特等席はここだろう」
 囁くように豪炎寺は口にすると、わふ、と一つ欠伸をして目を閉じた。唯一自由になる尾を揺らし、ぺちんと悔しげに豪炎寺の後ろ足を叩いた鬼道だったが、もう動く気のなさそうな豪炎寺に観念したように瞼を伏せた。
 少し離れた所に立つ巨木によってできた影は、風に葉が揺れると、ときおり陽光が隙間から零れ落ちる。
 心地好い初夏の風が二匹の毛を撫でる中、豪炎寺と鬼道は心地好い午睡に身を委ねた。

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