N.W.D -稲妻11別館-


IndexTextNotes | Clap

大きい二人とちいさいふたり 2


 とてとて、と響く小さな足音。
 今朝は随分と冷え込みが厳しく、雪に馴染みの少ないこの辺りでも初雪が降るかもしれないと朝の天気予報は告げていた。と、言っても床暖房のお陰で足下は十分温かかったし、断熱のしっかりした造りのマンションでは室内にいる限りは、その寒さもあまり実感が湧かない。
 とてとて、とまた足音が響く。
 ニュースを伝えるテレビの音に掻き消されてしまいそうなほど小さな足音は、けれども豪炎寺の耳にはしっかり届いて、いつもよりも少しゆっくりなそのリズムに僅かに首を傾げて下を見た。
「おはよう、修也」
 ぐるぐる巻きのマフラーにほとんど口許まで埋めたゆうとが少しだけ不機嫌そうに口唇を尖らせて、けれども豪炎寺と話せるのが嬉しいという感情を隠すことなく瞳を輝かせて顔を上げていた。
「おはよう、ゆうと。今日は随分厚着だな」
 こんなにしたのが誰かなんて尋ねる必要はない。
 くすりと口許を緩ませて豪炎寺は手を差し出した。ぱっと顔を輝かせてその手に飛びついた小さな同居人を豪炎寺はそっとテーブルの上に運んでから、改めてその格好を上から下まで見回して、完全防寒だなと感心したように呟いた。
「しゅうやは心配症なんだ」
 その言葉にゆうとは不満そうに声を上げる。
「こんなに着なくても大丈夫だって言ったのに……」
 もこもことした厚手のコートは確かに室内では暑すぎるかもしれない。その証拠に、ゆうとの頬はほんのりと上気して赤みがさしていた。だが、あと少しもしないうちに外出することを考えたならば、着過ぎて悪いことはないだろう。
「だが、ちゃんと防寒しないなら留守番でもいいんだぞ?」
 少し意地悪だったかもしれない、と思いながら豪炎寺が口にした言葉は案の定、ゆうとの心に刺さったようで、途端にその表情が曇る。
 しょぼんと項垂れてしまった姿に豪炎寺は、慌てて心配するな、と指先で小さな頭部を撫でた。
「すまない、意地悪を言った」
「修也ぁ……」
 潤みかかった瞳に見上げられ、文字通りの小人の姿に、本人もこれぐらい素直だと助かるんだが、と苦笑しながら豪炎寺はコートを持ってまもなくリビングルームにやってくるであろう恋人の姿を思い浮かべる。
「置いていかない?」
「当たり前だ」
 不安が溢れていた瞳が、豪炎寺の返事にぱっと輝きを取り戻す。
「修也、好き……」
 大きな掌に頬を寄せる姿に豪炎寺も満足そうに目を細めた。

Back | Text | Index









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -