N.W.D -稲妻11別館-
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Clap残念すぎる豪炎寺さんばかりです。 8
あと三十分ほどで帰る、とメールを送ってからきっちり三十分。
渋滞に遭うこともなく快調に帰り道を走らせた愛車をマンションの駐車場に入れ、ドアをロックした鬼道は鍵をちゃりんと掌の中で遊ばせながら、エレベーターのボタンを押す。
二泊の出張で三日ぶりの我が家に加え、鬼道が出張に出る前に入れ違いで泊まりだった豪炎寺と顔を合わせるのも一週間ぶりに近い。短時間とはいえ、フライトで疲れた身体とは裏腹に精神の方が高揚するのは仕方がない、と鬼道は小さく苦笑しながら、ドアに手をかけた。
帰宅する時刻を知らせていたからもしかして、と思いながらも実際に抵抗なく開いた扉に、不用心だろう、と僅かに眉を顰めた鬼道だったが、次の瞬間、開いた扉の内側の光景に絶句した。
「おかえり、鬼道」
「あ、ああ……」
手にしていたバッグがドサリと床に落ちる。
そんな鬼道の様子に気づいているだろうに豪炎寺は気にした風もなく、床のバッグを持ち上げると、疲れただろう、と柔らかな笑みを向けた。
「……まあな」
「風呂の用意もできているが……と、こういうときの定番があったな」
まさか、と鬼道がごくりと唾を飲み込んだ前で、豪炎寺がバッグを床に再び下ろし、表情だけでなく身も強張らせている鬼道の身体をぎゅっと抱きしめる。耳朶に口唇を寄せて、まるでベッドの中を思わせる甘く深みのある声で囁いた。
「食事にするか、風呂にするか、それとも」
オレ、と豪炎寺が最後まで口にする前に、ぐいと鬼道が胸を押すように腕を突っ張らせる。
「その前に……」
まじまじと見るのも嫌だというように視線を逸らせて、鬼道が深々と溜息を一つ零した。
「その格好はなんなんだ……」
「ん?」
じろりと一瞥をくれられた豪炎寺が、フリルのたっぷりついた可愛らしいエプロンの裾を持ち上げる。
「せっかくプレゼントしたのに鬼道が着てくれないからな」
不満そうに口唇を尖らせた豪炎寺に、鬼道は額に手を当て、もう一つ溜息を吐く。
「なんだ、その原因はオレにあるみたいな言い方は……」
「あるのに使ってやらないと勿体ないだろう」
「そもそも買ってこなければ勿体ないも何も」
ないだろう、と鬼道は豪炎寺を見ないようにバッグを持ち上げ、寝室に足を向ける。
「さっさと脱げ」
「なんだ、風呂からか……」
「そんなこと言ってない」
噛み合わない会話に鬼道は脱力を覚えながらも、豪炎寺がわざとそうしていることには気づいて、はぁ、と天井を仰いだ。
疲れて帰宅して何故こんな目に、と思いながら諦めたように豪炎寺を見た。方法はともかく相手の温もりと熱を欲しているのはどちらも一緒なのだから意地を張っても仕方がない、と乾いた口唇を舌で行儀悪く舐め上げ、豪炎寺の胸元にこつんと額を押しつける。
「どうした?」
「……たっぷりサービスしてくれるんだろうな?」
明らかに誘いの色を滲ませた鬼道の言葉に、豪炎寺はにやりと捕食者の笑みを浮かべて、勿論だ、と耳許で囁く。
肌に感じる柔らかな布地の感触に、こんな姿、オレ以外の誰にも見せられないな、いや見せるものか、と胸中で固く誓って、楽しみにしている、と顔を上げた鬼道の双眸が豪炎寺の情欲を煽るようにゆらりと揺れた。
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