N.W.D -稲妻11別館-


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残念すぎる豪炎寺さんばかりです。 6


「豪炎寺っ!」
 珍しくあからさまな焦りの混じった鬼道の声にも豪炎寺は欠片も動じた気配はない。
「シャツを返せ」
「断る」
 別にシャツが1枚ないぐらい、本当であれば気にする必要はない。クローゼットを開けて、別のシャツを引っ張り出せば済む話だ。
 けれども、今はそういうわけにはいかなかった。
 鬼道の思惑を完全に妨害する意図でもって立ち塞がる豪炎寺の姿にぎりと口唇を噛み締める。
 布団の下に隠された身体は何も身に着けていない。空調を十分に利かせているせいで、寒さは感じなかったが、そのままの姿でベッドの外に出るなんて冗談ではなかった。
 いくら豪炎寺しかいないと言っても、無論、この場にいるのが自分一人であっても全裸で室内をうろうろするなんて鬼道には考えられない選択肢で、だからこそ自分さえも知らない箇所まであますことなく見られている豪炎寺が相手であってもそういう行為をしていないときに身を晒すなど耐え難い羞恥心があり、身を覆うように巻きつけたタオルケットをぎゅっと強く握りしめた。
「別に全裸のままでいろと言ってるわけではないぞ」
「だ、だがっ……」
 豪炎寺の口調は至って普通で、恥ずかしがっている自分の方が何か我儘を言っているような錯覚さえ憶えてしまう。
「これを着て欲しいだけだ」
 鬼道の手から奪い取ったシャツを持つ手とは反対の手に掲げられた白いレース地のフリルエプロンが目に眩しい。何処からそんなものをとかどうしてそんなものをなんて口にするだけ無意味な疑問だけがぐるぐると脳内を巡る。
「どうしても嫌か」
 頑なに拒絶の意を示す鬼道に、少しだけ豪炎寺の表情が曇った。整った相貌に影が落ちるのを見て、鬼道の心中に罪悪感が増す。
 何も悪いことなんて言ってないし、してもいないのに、どうして自分がこんな気持ちにならなければならないのか、と思うと本当に豪炎寺は狡いと思ってしまう。
 言葉一つ、表情一つでこうも容易く此方の感情を揺さぶるのだから。
 だが、何が哀しくて男の自分が裸エプロンなんて破廉恥な真似をしなければならないのか、とぎりぎりのところで理性が感情を抑えこんでいた鬼道に、だったら、と豪炎寺が顔を上げた。
「?」
「オレが着れば、お相子だな」
「……は?」
 予想もしていなかった豪炎寺の言葉に鬼道の口からややマヌケな声が漏れる。
「だが、鬼道が着るものは、今日はこれだけと決めてあったから他の服は禁止だ」
「……はぁぁ?」
 にやりと笑った豪炎寺の言葉を鬼道の脳が理解する前に豪炎寺は、ばっとエプロンを頭から被るように身に纏った。
 最初から上半身は何も身に着けていなかったこともあり、上だけ見れば世間一般で言うところの裸エプロンの出来上がりである。
「ちょっと、」
 待て、と一層焦りの混じった鬼道の制止の声にも構わず、豪炎寺は微塵も躊躇いなく下半身に着けていた寝間着代わりのスウェットを勢いよく脱ぎ捨てた。
「豪炎寺っ!」
 鬼道の口から悲鳴のような呻き声が漏れる。
「止めてくれっ……」
 鬼道よりも浅黒い肌に白いフリルが浮いて見えるのが、自分が着たわけでもないのに鬼道の羞恥心を一層煽る。
 短い丈の裾はギリギリのところで、豪炎寺の立派な一物を隠してくれていたが、ちょっとでも動けばきっと見えてしまうだろう。
 全く恥じ入った様子もなく堂々と立つ豪炎寺を恨めし気に見た鬼道は、こんなことなら自分が素直に着ておけば良かったのか、と呻き声を漏らした。

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