N.W.D -稲妻11別館-


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残念すぎる豪炎寺さんばかりです。 5


「鬼道、これ穿いて欲しいんだ!」
 勢いよく豪炎寺に突きつけられた飾り気のない紙袋を鬼道は、訳も分からぬまま受け取ってしまってから、穿いて、と疑問符を浮かべながら首を傾げた。
「ああ」
 自信に溢れた豪炎寺の表情に何なんだ一体と思いつつ、プレゼント自体は嬉しかったのでいそいそと封を開いた。穿くというからには衣類なのだろうと思う。ただ、手に触れた感触は短パンというには柔らかすぎて、何か分からぬまま、鬼道はそのまま取り出した。
「なっ……!」
 袋から取り出した自身の手の中を見た鬼道の口から声にならない音が漏れる。それは所謂下着で、しかも鬼道の認識に間違いがなければ、何処からどう見ても女性用で、可愛らしいイチゴがプリントアウトされていた。きっと夕香ちゃんならばとても可愛いのだろうと少しだけ現実逃避しかかった脳が辛うじて現実的な思考をしようと努めるていたが、あまり効果はない。
ふるふると震える鬼道を前にしても豪炎寺は意に介した様子もない。
「豪炎寺……」
 帝国時代も真っ青な程、低いドスの効いた声が鬼道の口唇から零れる。
「なんだ?」
 感情があまり表情に出ないと言われがちのくせに、そのわにやついた口許をどうにかしろと怒鳴りたいのを必死で堪えて、鬼道は努めて冷静になろうとしたが、掌の中の存在がそれを許してくれない。
「これをオレにどうしろって?」
「ああ、穿いて欲しくて買ってきた」
 無駄に爽やかな笑顔を向ける男を前に、今なら皇帝ペンギン1号を打っても後悔しないと鬼道は思いながら、大きな溜息を吐き出した。

 そして、後日。

「豪炎寺っ!」
 人の上に立つ者としての教育を受けてきた鬼道は基本的に歩き方も綺麗だ。余程のことがない限り、足音を荒立てたりはしない。
 その鬼道が如何に豪炎寺以外に誰もいないと知っていてもこうも慌ただしく飛びこんでくることは珍しい。
「どうした?」
 そこまで興奮することはないのにと思いながら、ベッドに腰掛けていた豪炎寺は、平然と顔を上げた。
「どうした、ではない!」
 タオル一枚腰に巻いただけの姿でふるふると怒りに震える様子にも豪炎寺は恐れる様子もなく、何がだ、と至って真面目な表情で返す。
 こいつのこの冷静そうな顔に何度騙されてきたことか。鬼道は一つゆっくりと息を吐きだして、豪炎寺のペースに持っていかれないように、落ち着け、と自分に言い聞かせた。
「これはどういうことだ」
 べしっとシーツに叩きつけられたのは可愛らしいイチゴ模様がプリントアウトされた布の塊で、豪炎寺はしれっと下着だ、と口にした。
「折角プレゼントしたのに鬼道に突き返されたやつだな」
「それがなんで、洗面所にあるんだ!」
 髪もロクに乾かしてないのだろう。ぼたぼたと垂れる滴にも構わず、鬼道は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「替えの下着が必要だと思ったからな。まさか、あれを穿いて帰るわけにはいかないだろう?」
 あれ、と言われて、先程の情事ですっかりすっかり濡れそぼった下着を思い出し、鬼道はぐっと言葉に詰まる。
「今、洗濯機を回してるから帰りまでには乾くから」
 続く豪炎寺の言葉に気が利くなとは決して思ったとしても口には出せない。
「それまで下着なしというわけにもいかないだろう?」
 別にオレはそれでも構わないが、とにやりと口許を歪めた豪炎寺を前にして、やはりあのとき皇帝ペンギン1号を打ちこんでおくべきだったと鬼道は今更どうにもならない後悔とともに口唇を噛み締めた。

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