N.W.D -稲妻11別館-


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残念すぎる豪炎寺さんばかりです。4


 ドアを閉めた途端、ばたりと崩れ落ちそうになった鬼道の身体を豪炎寺がそっと支える。
 外ではなんでもない振りをしていたが、相当辛かったのだろう。ベッドまで運ぶために豪炎寺が抱き上げると、いつもなら形ばかりではあったが抵抗を示すのに、今日は何も言わず、きゅっと力なくシャツの端を掴むばかりだった。
 青白い顔をしているのに強がってばかりで、全く仕方ないと溜息を吐きつつ、揺らさないようにいつも以上に慎重に歩を進めると、柔らかいシーツの上に静かに下ろした。
「……すまない」
 痛みに顔を顰めながら、鬼道が離れていく体温を乞うように豪炎寺の手に指を伸ばす。
「気にしなくていい」
 具合の悪いときはお互い様だ、とそう言って豪炎寺は安心させるように鬼道の頭を撫でながら、もう一方の手はされるがままに鬼道に預けた。
「何か温かいものでも飲むか?」
 間断なく襲う痛みに耐えながら、鬼道は小さく首を振る。
「今はいい」
「そうか……」
 こんなとき、何もしてやれないな、と力なく呟いた豪炎寺の指先を鬼道はぎゅっと握り締めて、大袈裟だな、と少しだけ荒い息と一緒に笑う。
「でも、」
 じわりと掌から伝わる熱が心地好い。
「心配されるのは、悪くない」
 こんなときでも素直に嬉しいと言えない自分がちょっと情けなくて、鬼道はふいと顔を逸らした。
 痛みのせいで白くなっていた肌にほんのりと赤みが差しているのに気づいて、豪炎寺は少しだけほっとしたように頭を撫でていた手を腹部にずらす。掌全体を押し当てるようにして、優しく撫でた。
「おまえの手は魔法の手だな」
 撫でられる程に、じわじわと染み渡るように掌から伝わる熱と労わりの情に鬼道がほぅと息を吐きだした。
「ありがとう」
 かなり楽になった、とそう言おうとして、鬼道は視線の先で酷く真剣な表情をした豪炎寺に気づいて、どきりと胸が高鳴る。こんなときだというのに、いや、こんなときだからこそか。
 惚れた男の真摯な表情に目を奪われた。
「鬼道」
「何だ……?」
 痛い程に真剣な眼差しから目を逸らせない。
「ヒッ、ヒッ、フーだ」
「……は?」
 鬼道の脳裏に疑問符が浮かび上がる。何かの聞き間違いかと思い、間抜な声が止める間もなく零れてしまったが、豪炎寺は気にした風もなく、もう一度、真面目な表情でヒッ、ヒッ、フーだぞ、鬼道と繰り返す。
 腹の痛みが一瞬何処かへ消え去った代わりにズキズキと頭が痛んだ。
「豪炎寺……」
 はぁと一つ深々と溜息を溢して、こんなときでも凛々しく整った顔立ちを少し苛立たしげに見上げて、鬼道は冷静に告げる。
「生まれないぞ」
「……えっ」
 その言葉に、まるで死刑宣告でも受けたかのように固まった恋人の姿に、けれどもこんなバカな姿を知っているのも自分だけかと思うと、それも悪くはないと思ってしまった自分に、バカなのはお互い様か、と鬼道は小さく笑みを零した。

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