N.W.D -稲妻11別館-


IndexTextNotes | Clap

プレシャス・タイム 13


 んっ、と小さく声を漏らして目を覚ました豪炎寺は身体を起こそうとしてできないことに気づいて、まだ寝呆けたままの頭で瞼を押し上げた。
「え……」
 視界の中央を占めていたのは、見間違えようのない鬼道の姿で、ひしと胸許に顔を埋めて、しがみついている珍しい姿に、くすっと口許を緩める。
 鬼道、と名前を呼ぶと、ぎゅっとさらに強くシャツを掴まれて、豪炎寺の笑みが深まった。
「やっぱり寒かったんだろう」
 くすくすと笑う豪炎寺に鬼道は視線だけを向け、むっと口唇を尖らせる。
「うるさい」
 初夏を思わせる陽気が数日続き、もう羽毛布団の季節ではないだろうと言った鬼道に、まだしばらくは寒の戻りがあるかもしれないからと言ったのは豪炎寺の方で、けれどもこんなに暖かいんだ、と強硬に主張したのは鬼道の方だった。
 だが、昨日は花冷えと呼ぶのがまさに適当なほどの気温の低下で、ベッドに入ったときから珍しく自分からぺたりと豪炎寺に身を寄せてきた鬼道に、ほらな、と苦笑したのを思い出す。
「そうやってしがみつかれてると起きられないんだが……」
 豪炎寺の言葉に、いつもは起こしてもなかなか起きないくせに、と鬼道が悔しげに口唇を噛みしめた。
「鬼道?」
 にやにやと笑う豪炎寺に、うるさい、と鬼道が睨みつける。
「どうせ休みなんだ」
 もう少しこのままでいさせろ、と言った鬼道に豪炎寺ははいはい、と笑いかけると背に腕を回し、ぎゅっとその身を押しつけるように抱き寄せた。
 今日だけだからな、と不貞腐れたように言う鬼道に、別に毎日、甘えてくれていいんだけどな、と豪炎寺は余裕たっぷりに笑いかける。
 鬼道はぎゅっと豪炎寺の胸許に顔を押しつけると、うるさい、と口唇を尖らせた。

 どのくらいそうしていたのだろう。
 きっと正確には五分と経ってはないはずだったが、首許に触れる鬼道の髪が擽ったいのと、何より世界で一番恋しい存在を腕に抱いているだけで満足できるほど幼くも涸れているわけでもなく、豪炎寺は背に回していた腕で後頭部を優しく撫でながら、なあ、鬼道、と声をかけた。
「……なんだ?」
 豪炎寺の体温が心地好いのか、鬼道の声は少しだけ微睡みを含んでいて、いつもより幼い。
「もう少しって」
 いつまでだ、と苦笑交じりに言った豪炎寺の意図に気づいているのかいないのか、少しだけとろんとした瞳を向けた鬼道は、きょとんと豪炎寺を見る。
「疲れたのか?」
 細身だと周囲に言われることが多いのは自覚していたが、それでも立派な成人男性である自分を無雑作に乗せているのだ。
 その重量に不満を覚えても仕方がない、と鬼道は豪炎寺の返事を待つ。
 この温かさから離されるのは本当は嫌だが仕方がなかった。
 だが、豪炎寺は、ん、と首を小さく傾げて、いや、と首を振った。
「別にそれは構わないんだが……」
 だったら、なんだ、と訝しげに見つめてくる紅玉色をした双眸に、ああ、と豪炎寺は心中で溜息を吐き出す。
 もう何年も一緒にいるというのに、こんな風に無自覚なところは昔のままだ、と口許を僅かに歪めると、鬼道が目聡くそれを見咎めた。
「豪炎寺」
 なんだ、と促すようにもう一度、問を投げる鬼道に、ああ、と今度は胸中ではなく、本当に溜息を漏らして、豪炎寺はぐいと腰を突きあげるように訴えた。
「なっ……」
 押しつけられたその感覚が何か分からないほど、鬼道とて初心なわけではない。
 朝の生理現象と呼ぶにはしっかりと反応しすぎている恋人のモノを感じ、けれども、ほんの僅かの驚きは隠せずに、どうして、と鬼道は呟いた。
「当然だろう……」
 その言葉に豪炎寺が苦笑を浮かべる。
「朝から恋人にこんな可愛く甘えられて、剰えぴったり接触されているんだ。これで反応しなかったら、逆に病気を疑った方がいい」
「か、可愛く……」
 甘えたことには多少の自覚があるのか、そこには触れず、鬼道は可愛くなんてない、と憮然とした表情でぽふんと再び豪炎寺の胸に頬を押しつける。
 その振舞が可愛いんだと何度言えば納得するのだろう、きっと理解はしても認めてはくれないんだろうな、と豪炎寺はもう一度、苦笑して、で、と鬼道の身体をやや強引に引き上げた。
「シてもいいか?」
 下から見上げてくる豪炎寺の軽い口調とは裏腹に、熱っぽい視線を向けられ、鬼道は、う、と息を飲み、カーテン越しに感じる陽光と真っ直ぐな豪炎寺の視線の間をちらちらと彷徨わせてから、覚悟を決めたように、こくりと頷いた。
 朝からこんな、と少し罪悪感が湧いたのも事実だったが、鬼道だって久しぶりの二人揃っての休日、しかも外気は冬に逆戻りしたのかというほどの寒さでは、ベッドから出る気が起こらなくても仕方がない、と豪炎寺の誘いに乗るように寄せられた口唇に応えるように自らそっと近づける。
 重なる二人の口唇は最初は触れ合うだけのものから、次第に深みを増していった。

Back | Text | Index









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -