N.W.D -稲妻11別館-


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プレシャス・タイム 12


 久しぶりに二人揃っての夕飯。
 食事当番は交代制だったが、今日は運良く早く帰れて暇だったからな、と鬼道が帰宅したときには豪炎寺の手によって作られたシチューの香ばしい匂いが家の中を満たしていた。
 早く帰れたとは言え、豪炎寺だって疲れているだろうに、と申し訳ない気持ちを覚えつつ単なる熱的な温かさ以上の想いの籠もったシチューに胸が温かくなる。
 ほわりと口中に広がる野菜の甘みに目を細めると、じっと見つめていたのか豪炎寺と目が合って、鬼道はまるで付き合い始めた頃のような気持ちを感じて頬を染めた。
「鬼道……?」
「……っ」
 きょとんと見つめられて、慌てて顔を伏せる。
 アルコールも呑んでいないというのにまるで酩酊したような錯覚を覚えて鬼道はさらに紅潮する頬を豪炎寺の目から隠すように忙しなくシチューを口に運んだ。
「珍しいな……」
 少しだけ目を丸くして豪炎寺はスプーンを皿に置く。かつんと小さな音が響く。
「何か心配事でもあるのか?」
 余程スケジュールが立てこんでいるときは別として、基本的に鬼道の食事風景は何処かゆったりとしている。
 それこそ学生の頃は腹を空かせた欠食児童の中で一人だけ時間の流れが違うかのようにゆっくりと咀嚼していた姿が今でも忘れられない。
 声に混じる此方を気遣う響きに鬼道は、はたと手を止めて、ふるりと首を振った。
「……もない」
「鬼道?」
 ことんとスプーンを置いて、けれども鬼道は顔を伏せたまま、もごもごと口の中の人参をゆっくりと飲みこんで、そして、ちらりと豪炎寺の顔を見る。
「……なんでもない」
「……」
 鬼道の言葉を疑っているわけではないが、さりとて額面通りにその言葉を受け取ってはいない豪炎寺の視線が痛い。
「ただ……」
 じっと見つめられる意思の強い眼差しに顔だけでなく全身の熱が上がった気がして、鬼道は、はぁと一つ息を吐き出してから諦めたように顔を上げた。
「おまえのことが好きだと改めて思っただけだ」
「っ……!」
 さらりと告げられた言葉に一転して豪炎寺が息を飲む。鬼道よりも肌の色が濃い分、分かりにくかったが、僅かに五蘊時の顔も赤くなっているのが見て取れて、少しだけ鬼道は胸中がすっとしたのを感じた。
「鬼道は……」
 完全にスプーンを置いた豪炎寺は、ぐっと拳を握りしめて鬼道を見る。
「さらりとこっちの心をかき乱すから性質が悪い……」
 苦笑交じりに言われた言葉に、お互い様だ、と鬼道は頬を緩めた。
 皿から立ち上る蒸気が鼻腔を擽る。
 忘れていた空腹感が呼びこされ、くぅ、とどちらともなく鳴った腹の虫に顔を見合わせて、くすりと笑う。
「折角、おまえが作ってくれたのに冷めたら勿体ないな」
「ああ……」
 ふっ、と口許を歪めると、もうすっかりいつものペースを取り戻した鬼道が何事もなかったかのようにスプーンを口に運ぶのを見ながら、お互い様どころか負けっぱなしなんだかな、と苦笑交じりに呟いた豪炎寺の声はシチューと一緒に飲みこまれた。

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