N.W.D -稲妻11別館-
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Clapプレシャス・タイム 11
ちらりと此方を見ては、視線を逸らす。
むず痒そうに眉間に皺を寄せては、溜息を吐く。
朝からずっとそんな調子の豪炎寺に、鬼道はいい加減、呆れたように口を開いた。
「辛いのは分かるが、鬱陶しい」
「……それは、あんまりじゃないか」
鬼道、とむっと顔を顰められても、本当のことなのだから仕方ない。
出逢って最初の春は何もなかった。
そして翌年の春も平気だったのに、ある年、気づいたら鼻がむずむずすると不快な顔をした豪炎寺がいて、ああ、これは、とどちらも口に出すことなく、避けられない現実を甘んじて受け入れた。
それほど重度のものではないらしいのが幸いだったが、それでも春のうちに何日かは、こんな風に耐えられない日があって、散歩をしたら気持ちいいだろうと思える陽気な空を恨めしそうに見上げながら、豪炎寺は、今日は何処にも出かけない、と朝のうちから宣言していた。
「だったら」
目に見えない花粉の量なんて鬼道には分かるはずもなくて、だから、多い日に知らずにうっかり窓を開けてしまったことは申し訳ないとも思ったが、寝起きで頭が十分に働いていなかったのだから、それぐらいは許して欲しいと思わずにもいられない。
「さっさと薬を飲んで、マスクをすればいいだろう」
どうしようもないながらもせめてもの自衛策を提案すれば、さらにむっと顔を顰められて、鬼道はもう一度深々と溜息を吐き出した。
「あのな、」
「キスができない」
豪炎寺、と言いかけた鬼道の言葉に重なる不満げな声。
「マスクをしたら、したいと思ったときにキスできないだろう」
「そんなことを主張されてもどうしようもないだろう」
大きななりをして、こんなくだらないことで愚図る姿なんて、とてもではないがファンには見せられたものではないな、と思いながら、そんな姿さえも知っていることに誰に対してでもない優越感が湧き起こり、鬼道はくすっと口許を緩ませた。
「別にマスクを外す間ぐらい、待ってやるさ」
スマートじゃなくたって、気にしないぞ、とニヤリと笑えば、だったら、と豪炎寺が口唇を尖らせる。
「鬼道からしてくれ」
何を、と意地悪く問い返しても良かったのだが、これ以上拗ねられてもあとが大変なので、鬼道は、はいはい、と肩を竦めると、徐に顔を寄せて、ちゅっと口唇を重ねた。触れただけの軽いキスに、豪炎寺が、足りない、と不満げに訴える。
「これ以上は、薬を飲んでからだ」
駄々っ子をあやすように鬼道は言うと、ぽん、と薬を豪炎寺の手に落としながら、もう一度だけ軽く口唇を重ね合わせた。
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