N.W.D -稲妻11別館-


IndexTextNotes | Clap

プレシャス・タイム 10


 少しずつ朝の気温が上がっていく感じに春が近づいていることを実感する。
 けれども、そんな外気よりももっとはっきりとした温かな熱に包まれていることを思い出して、関係ないか、と思い直しながら、鬼道は傍らの恋人に覆い被さるように顔を覗きこみ、耳許に口唇を寄せた。
「おはよう、」
 豪炎寺、と柔らかく囁くとむず痒かったのか、豪炎寺が小さく逃げるように顔を逸らそうとする。
 そんな子どもっぽい仕草に鬼道はくすりと、頬を綻ばせて、もう一度、おはよう、と今度はもう少しはっきりとした口調で告げて、そして、耳朶を柔らかく食んだ。
「んっ……」
 ぴくりと豪炎寺の瞼が動く。
「早く起きないと遅刻する」
 くすくすと笑いながら、鬼道が豪炎寺の口唇をなぞるように指先を這わせていたら、悪戯を咎めるように徐にぱくりと咥えられた。
「あっ……」
 鬼道の口から漏れた驚きの声に、瞼を押し上げた豪炎寺がにやりと笑う。
「朝から随分可愛いことをしているな」
「ふっ……おまえが起きないから」
 だ、と最後まで口にする前に、その言葉は押し付けられるように重ねられた豪炎寺の口唇に塞がれ、喉の奥に飲み込まれた。
 粘膜と粘膜を重ねるだけの軽いキスなのは、それ以上してしまうと止められなくなるのを豪炎寺も知っているからで、いい意味でも悪い意味でも大人になったと痛感する。
 柔らかな感触をたっぷりと味わって、それでも名残惜しげに離された口唇を追いかけるように、少し不満げな吐息が鬼道の口から零れたのを豪炎寺は耳敏く拾いあげた。
「足りないのか?」
「お互い様だろう」
 挑発するように口にした言葉に、上乗せして返された歪められた口許。甘さの中に潜む駆け引きにも似た攻防にどちらからともなく顔を見合わせて、もう一度、おはようと口唇を震わせる。
 窓の外の陽光は柔らかい。春はもうすぐそこまで来ているのかもしれないな、と思いながら、二人はもう一度だけ軽く口唇を触れ合わせた。

Back | Text | Index









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -