N.W.D -稲妻11別館-


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純情Days 16


 昼は昨日残りのカレーでもいいか、とすまなさそうに言った豪炎寺に対して、構わないぞ、と返した鬼道のゴーグルの下の瞳が僅かに輝く。
 カレーってさ、いつ食っても美味いけど、昨日の夕飯の残りとかすっげぇ美味いよな、といつだったか円堂が言っていたのを思い出して、ほんの少しそわそわした。
 円堂の言葉にそうだなと頷いた豪炎寺の傍らで、そういうものなのか、と二人の言葉を聞いていただけだった鬼道は、普通に食べても豪炎寺の家のカレーは美味しいのに、では一晩置いたらどのくらい美味しくなるのか、随分気になっていたのだと、言い出せないままだった。
 その疑問がついに明らかになると思うと表には出さずとも心が湧き立つのは当然で、けれども普通の人間だったなら気づかなかったであろうポーカーフェイスも豪炎寺の眼力の前では脆くもその下の感情を露わに暴かれる。
「鬼道……?」
 だが、具体的な内容までは流石に推測することは困難で、豪炎寺は怪訝な表情で鬼道の名を呼んだ。
「やっぱり昨日の残り物なんて嫌か?」
 鬼道の家で食事を御馳走になるときは、お抱えの料理人が丁寧に調理した物が出されるのが常で、それは豪炎寺が邪魔するとき以外も当然そうだろうから、昨日の残りなんて食べたことないんだろうな、と申し訳なさそうに豪炎寺は反応を窺う。
「いや……」
 構わない、と言っただろう、と鬼道がもう一度口にしても納得いかないのか、豪炎寺は、だが、と言葉を濁す。
「なんだったら、外に食べに行くか?」
 それでもオレはいいんだが、と付け加えられた言葉に、鬼道は、は、とゴーグルの下の瞳を丸くして、そして小さく溜息を吐き出した。これは正直に言わないと納得しては貰えないのだろう、そう思っても今更口に出すのも気恥ずかしくて、鬼道の中に僅かに逡巡が生まれる。
「鬼道?」
 けれども、悩んでいる暇はないとでもいうように投げられる声に、覚悟を決めたように鬼道はもう一度、息を吐いて、そして豪炎寺を見た。
 レンズ越しに紅玉の瞳が真直ぐに豪炎寺を映す。
「カレーがいい」
 けれども、僅かに残った見栄とも呼べない小さな意地が、正直に告げることを拒み、代わりにカレーで、ではなく、が、と言った意味を察しろとでもいうような口調に、鬼道は胸中で頭を抱えそうになった。
 その、と慌てて付け加えようとした鬼道の声に、そうか、という豪炎寺の声が重なる。
「フクさんのカレーも翌日の方が美味しいんだ」
 なんでだろうな、と僅かに弾んでいるようにも聞こえる豪炎寺の声を聞きながら、もしかして、全て見通されているんだろうか、と鬼道はほんのり頬を染めて、けれども内心を押し隠して、なんでだろうな、とぶっきらぼうに返した。
 向かい合った食卓に温かなカレーが盛られた皿が二枚並ぶ。
 いただきます、と行儀の良い声が重なり、互いに手にしたスプーンを綺麗な所作で動かした。
 カレーが美味しいのも、翌日のカレーの方が美味しく感じる理由も分からないままだったが、とりあえず二人で食べるから美味しいのだということに気づくのはもう暫く先の話である。

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