N.W.D -稲妻11別館-


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純情Days 14


「豪炎寺君、鬼道君、今日の放課後、生徒会室まで来てくれるかしら?」
 昼休みに夏未に呼び出された二人は、理由も知らされないまま、部室ではなく生徒会室へと足を向けた。
「なんだ、オレたち二人だけというのは?」
「さあな、少なくともサッカー部のことではないのだろう」
 仮にサッカー部のことなら、この場に円堂がいないのは不自然で、だからこそ夏未に呼び出される理由が分からず二人は困惑の表情を浮かべたまま、生徒会室の重厚な扉をノックした。
どうぞ、と中から響いた聞き慣れた声に導かれるままに部屋に入ると、練習前にごめんなさいね、と夏未に謝られる。
 いや、と互いに首を振り、用は、と問うと、そっと一冊の薄い冊子を手渡された。
「これは?」
 受け取った冊子をはらりと捲りながら、予想はついていたが確認の意味を籠めて、鬼道が尋ねる。
「今年の学校案内よ」
 夏未の言葉に、豪炎寺が、それで、と先を促す。
「オレたちをわざわざ呼び出した理由はなんだ?」
「お二人に来年度案内の制服モデルを務めて頂きたいと思いまして」
 如何かしら、と夏未がゆるりと口許を緩めた。
「それは……」
 互いに顔を見合わせ、少し考えさせてくれ、と口にした二人に、夏未は、ええ構わないわよ、と余裕のある笑みを浮かべる。
「でも、返事は早めにして頂けると助かります。できれば良い返事を」
 生徒会室を出てから部室まで、互いに相手の様子を探りながらもどちらも無言で、二人の間に微妙な沈黙が落ちる。
 部室に着いてからも一切その話題に触れることなく、すでに始まっている練習に参加するために手早く着替えてグラウンドに向かった。
 一旦、ボールに触れてしまえば、グラウンドの外での雑念は切り離され、練習中にその話題が二人の口に上ることはなかったが、帰り道、二人きりになってしまえば、弥が上にもそのことが頭から離れず、普段からそれほど口数が多いわけでもない二人の間に、けれどもいつもとは違う不自然な沈黙が漂った。
「……制服モデルか」
 先に沈黙を払ったのは鬼道の方で、ぽつりと零された言葉に、豪炎寺が、受けるのか、と弾かれたように反応する。
「そういうおまえは」
 どうするんだ、と卑怯だと思ったが、鬼道は質問に質問で返す。
 豪炎寺は誰が見てもカッコいいから、夏未がモデルを頼みたいと言ったのも当然の判断で、自分が同じ立場だったとしても客観的にであれば、そう決断したに違いない。
 ただ、それは夏未の立場であれば、であって鬼道個人としては選ばない結論だった。
 ただでさえ、豪炎寺はモテる。
 今でさえ、校内の女子だけでなく他校からも放課後になれば豪炎寺見たさに雷門中まで足を運ぶ女子が少なくないのに、この上、対外的なパンフレットなんてものに載ってしまったら、と考えると些か自分の女々しさに残念な気持ちになってしまうが、正直に言えば、できるだけ人目に晒したくないのが本音だった。
 だが、そんな個人的感情に強引に蓋をして、鬼道は豪炎寺と目を合わせずに、やったらどうだ、と心にもないことを口にした。
「おまえがやったら、ますますファンが増えそうだけどな」
 ちくりと胸に痛みが走る。
「それは鬼道だって同じだろう」
 豪炎寺がちらりと正面を向いたままの鬼道の横顔に視線を向ける。
 ファンと鬼道は言うが、それを言うなら、鬼道についているのはもはや信者と言っても過言ではないと思う。
 豪炎寺に向けて送られる黄色い声は、一過性の物がほとんどだったが、鬼道のファンはそれこそ帝国時代からの熱狂的な応援が多い。
 一番の信者はおそらくかつてのチームメイトだったあの男に違いないのだろうが、そんな鬼道の載った案内書を佐久間が欲しがらないわけはないと思うと、豪炎寺は厄介だな、と小さく頭を振った。
 二人の間に再び沈黙が広がる。
 実のところ、今年度の帝国学園のパンフレットに鬼道が載っていたことを豪炎寺は知っていた。全国大会優勝チームを率いる稀代の天才司令塔を宣伝に使わないはずがなく、それは当然のことだと言える。
 けれども、知っているばかりか、こっそりと取り寄せていたなんてことが鬼道に知られたら困るので、話題に上げたことはなかったが、もしも本当に雷門の案内書に鬼道が載るのであれば、夏未に頼んで一部譲ってもらおうと心に決める。
「バカなことを……」
 豪炎寺の心中など知る由もなく、鬼道は、ふっ、と小さく口許を歪めた。
「おまえとは違う……大体、雷門は何故、オレになど声をかけたのか」
 全国優勝したサッカー部を全面に押したてたくて見栄えが良いのを選ぶなら、風丸にでも頼めばいいものを、と鬼道は肩を竦める。
 本気で自分の魅力を理解していない鬼道に、今後も絶えることのなさそうな気苦労を覚えて、豪炎寺は胸中で溜息を吐きだした。

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