N.W.D -稲妻11別館-


IndexTextNotes | Clap

純情Days 13


「鬼道」
 肩越しに声を掛けられ、鬼道が振り向くより先に脇からにゅっと二本の腕を差し込まれる。
「ギュッてしてもいいか?」
 なんだ、という前に耳朶に寄せられた口唇。皮膚を擽る吐息に鬼道はぴくりと身を竦ませた。了承の言葉を引き出す前からする気満々じゃないかとか、どうしてそんなに唐突なんだ、おまえは、とか言ってやりたいことは幾つもあったのに、結局、それらのどれも口にすることなく、鬼道はこくりと小さく頷いた。
 当人には恥ずかしくて伝えたことはなかったが、豪炎寺にぎゅっとされるのは好きだったから、すぐにでも背と腕に感じられるであろう自分よりも少し高い体温にドキドキと胸が高鳴る。あまりにもはっきり脈打つ鼓動に、全て豪炎寺に聞こえてしまっているんじゃないかという危惧さえ覚えながら待っていた鬼道の耳に落とされたのは少し不機嫌な声。
「おまえは」
 滅多に聞いたことのないトーンに鬼道が思わず振り返ったのとほぼ同時に豪炎寺の声が胸を打った。
「そうやって誰にでも許可するのか?」
 レンズ越しに見た豪炎寺は今までに見たこともないほど冷たい瞳で鬼道を見つめていて、その凍てつくような視線の鋭さに鬼道は、なにを、と喉の奥に貼りつくような痛みを覚えながら、口唇を震わせた。
「この状況で、それを一々言わないと分からない」
 なんてこと言うはずないよな、と口許を歪めた豪炎寺の言い草に鬼道の中でカッと何かが弾けた。
「ふざけるなっ!」
 ドンと勢いよく突き飛ばされて豪炎寺の身体が僅かによろめく。
「誰にでもなんて言うわけないだろうっ!おまえだ」
 けだ、と激昂気味に口にした鬼道は、唐突にすとんと熱が引いたように口篭り、それと反比例するように頬が赤く染まっていく。
「と、とにかくっ」
 オレをなんだと思ってるんだ、と普段の堂々とした話し方からは想像もできないほど、もごもごと口の中で言葉を持て余しながら顔をそらせた鬼道は、おまえなんか知らん、と悔しそうに背も向けた。
「鬼道……」
「うるさいっ」
 伸ばされた手を弾いて、ふるふると肩を震わせる姿に豪炎寺は憑き物が落ちたように我に返る。
「す、すまない……」
「うるさい」
 取り付く島のない鬼道に、それでも、すまなかった、悪かった、と何度も詫びの言葉を繰り返す。
「他の人間と仲良さそうにしてた鬼道を思い出したら、」
 嫉妬した。
 ぼそりと告げられた言葉は、けれども躊躇いもなく鬼道の耳に届けられた。
「……は?」
 何の話だ、と怪訝そうに眉を顰めた鬼道に、豪炎寺は言葉の通りだ、と口唇を噛む。
「円堂が飛びついたときも」
「あれは飛び乗られたんだ」
 何処を見たらあれを仲良さそうと思うんだ、いや、別に円堂との仲が悪いとは言わないが、とぶつぶつと反論する鬼道に構わず豪炎寺はさらに言葉を重ねる。
「一之瀬もよく抱きついてる」
「あれもっ、別にオレだけではないだろう」
「……オレはされたことはない」
 むすりと言った豪炎寺に、それは自分が仲間外れにあっていることを拗ねているのかどっちなんだ、と鬼道はなんだか怒っているのも馬鹿馬鹿しくなって、深々と溜め息を吐き出した。
「鬼道……?」
「一回しか言わないからな」
 頬が熱くなるのを自覚しながら、鬼道は豪炎寺の手首をぎゅっと握ると、え、鬼道、と豪炎寺が驚きの声を上げるのも構わず、ぐいとその身体を引き寄せる。
「特別な意味で、抱きしめたいと思うのも抱きしめられたいと思うのも」
 おまえだけだ、と囁くように落とされたのは眩暈を覚えそうなほど甘い睦言で、豪炎寺は鬼道の肩にぎゅっと額を押しつけると、すまない、と口唇を震わせた。
 ぽんぽんとその背を子どもをあやすように撫でながら、こいつのこんな姿を見られるのはきっとオレだけだろう、と鬼道はくすり、と口許を緩ませた。

Back | Text | Index









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -