N.W.D -稲妻11別館-


IndexTextNotes | Clap

純情Days 9


「お兄ちゃん、今日のおやつはプリンだよ」
 にこにこと笑って、小さなお盆に三個のプリンを乗せてきた夕香に、よく運べたな、偉いな、と穏やかな笑みを浮かべて豪炎寺は頭を撫でた。えへへ、と嬉しそうに笑う夕香にさらに豪炎寺の笑みも深まる。
 そんな二人の様子に、ソファの半ば鬼道がこの家を訪れた際の定位置と化している豪炎寺の横に、腰を下ろしていた鬼道もまた穏やかに目を細めた。
 豪炎寺が夕香の手から受け取った盆の上に鎮座した三個の市販のプリン。
 珍しいな、と鬼道が少し首を傾げたのに気づいたのか、豪炎寺が夕香が気に入ってるんだ、と口唇だけ震わせて密やかに告げる。基本的に豪炎寺の家で出される菓子は、家政婦であるフクの手作りで、だから今回のように市販の品が、しかもその容器のまま出されてくることは珍しい。
 そんな鬼道の耳に夕香の声が響く。
「お兄ちゃん、プッチンして」
 期待と興奮の混じった声。ああ、と豪炎寺は穏やかに応えると、フクが一緒に用意しておいてくれた皿を持って戻ってきた。何が始まるのか、と不思議そうに見てくる鬼道に、見てれば分かるとでもいうように返された口許に浮かんだ笑み。
 少しからかわれたような気もしたが、楽しそうに豪炎寺の手許を見つめている夕香の前だということを思い出して、鬼道はぐっと黙ると成り行きを見守った。
 鬼道の前で、夕香の言葉通り、プチンと小気味良い音を立ててプラスチックの角が折られる。徐に引っくり返された容器から、白磁の皿の上にぷるんと落とされたプリンに、夕香がわぁっと目を輝かせた。
「ほら、できたぞ」
 うん、と嬉しそうに頷いた夕香の声に鬼道は弾かれたように我に返ったが、その途端、くすり、と口許を緩ませた豪炎寺と目が合う。
「うっ……」
 見る間に頬が赤らんでいくのが自分でも分かる。じわりと熱を帯びた肌。
「随分、熱心に見てたが……」
「悪いか。初めてで……」
 豪炎寺の言葉に、ふいと視線を背けると小さく呟いた鬼道に、いいや、と柔らかい声が返される。
「鬼道のそういうところを見られることは滅多にないからな」
 嬉しい、と耳許に寄せて囁かれた言葉にさらに体温が上がりそうな気がして、鬼道は、からかうな、とそれだけ絞り出すように口唇を震わせる。
「お兄ちゃん、プッチンするのすごくじょうずなんだよ」
 にこにことやっぱり嬉しそうに笑って、スプーンでプリンを掬う夕香の声がそんな二人の空気にはお構いなしに部屋の中に響く。その声に、二人は顔を見合わせると、互いにふっと表情を和らげた。
「鬼道の分もしてやるぞ」
 その方が夕香も喜ぶ、と付け加えられた言葉に、鬼道は、仕方ないな、と笑みを返す。夕香が、ではなく、夕香も、と言った豪炎寺の言葉に内心を見透かされているのを自覚しながらも、意地を張るのも馬鹿馬鹿しいとばかりに、素直に頼むと口にした。
 プチンという軽やかな音が二度、リビングルームに響いたその後で、艶やかなカラメルを頂部に抱いた二個のプリンが白磁の皿の上でぷるぷると揺れていた。

Back | Text | Index









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -