N.W.D -稲妻11別館-


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純情Days 8


 直近で直接対決する機会があるわけではなかったが、見ておきたいチームがあるという鬼道に付き合って偵察に出た土曜の午後。
 頼めば、偵察ぐらい情報分析担当を自負する彼の妹が行ってくれないはずがなかったが、急いでデータを集めなければならない学校ではなかったので、ただでさえマネージャーの仕事は忙しい、春奈にそんな負担を強いたくはないという鬼道の相変わらずの妹愛と、何より自分の目で見ておきたいという鬼道の希望に納得と若干の嫉妬を抱えて、豪炎寺はその偵察に同行した。
 次の大会に向けて、チェックしておく学校は少なくない。
 幸か不幸かエイリア学園との戦いを通じて全国を巡ったことにより、全国大会に出場していなくても強い学校があちこちに多数あることを突きつけられた。まだ直接対決したことがない強豪校はきっと他にも全国にはゴロゴロしているに違いない。だから、時間のあるときに一校でも多くチェックしておくべきだという鬼道の考えに異を唱えるつもりはなかった。
 だが、喉の奥に刺さった魚の小骨のようにじくじくと豪炎寺の感情がささくれ立つ。
 チェックすべき数多くの学校の中でも、鬼道が自分の目で直接見たいと思ったのはどんなチームなのだろうか。
 否、チーム自体は問題ない。
 問題なのは、鬼道が気にしている選手だ。
 自惚れるつもりはないが、鬼道が自分を意識したのは、サッカー選手としての能力に依るところは否定できない。それならば、もっと強く鬼道の目を奪う選手がいたならば、そいつにさらなる興味を抱いたらと疑心暗鬼を抱く自分が情けなかった。
「なかなか興味深いチームだったな」
 土曜日の午後ということで程よく人に溢れた車内。
 ターミナル駅でそれまで乗っていた乗客の大半を吐き出した流れの中、上手い具合に二つ並んで空いたシートに座るように鬼道を促した。
 中盤の連携は少し甘いところがあるが、左サイドの突破力は気をつけないと危ないかもしれないな、と見てきたばかりのチームについて、分析しながら自分の感想も交えていく鬼道の声に、時々、相槌を挟みながら豪炎寺は軽い自己嫌悪を覚える。
 鬼道の分析は一々的確で、異を唱えるようなポイントは一つもない。くだらないことを危惧していた自分の矮小さを気づかれないように、ああ、そうだな、と頷きながら溜息を吐きそうになったのを慌てて抑えこんだ。
「豪炎寺……?」
 隣に座る男が口数が少ないのは今に始まったことではなかったが、それは無駄なことはあまり言わない、ということであって、必要なことはきっちり口にする。特にそれがサッカーのことになれば、お互い負けず劣らずのサッカー馬鹿であることは自覚していたから、ときには激しい意見のぶつかり合いになることも珍しくはなかった。
 だから、今日のように唯々諾々と相槌だけ返されてしまうと少し不安になってしまう。
 豪炎寺は優しいから、本当は何か予定があったのに自分に付きあってくれたのではないかとか、体調が良くないのを我慢しているのではないかといった不安が、あっという間に頭を持ち上げる。
「ん……?」
 だから、どうした、鬼道、と柔らかな色を浮かべたまっすぐな瞳に見つめられてほっとしたなんて、それが偽らざる本心ではあったが、そのまま口にするのは気恥ずかしい。それに、自分ばかりが豪炎寺の一挙手一投足に振り回されているなんて、豪炎寺からしてみれば言いがかりも甚だしいと分かっていても悔しかった。
「なんでもない」
 少し硬さが混じってしまった口調。その違和感に気づかないで欲しいと思いながらも、気づいて欲しいとも思ってしまう。なんて厄介な矛盾。振り払いたくて、正面のガラス越しに流れていく景色をぼんやりと眺めているうちに、意識が急に微睡み始めてしまった。
「……う。鬼道」
 肩を揺すられる感覚に意識がぼんやりと浮上する。
「鬼道、起きろ」
 終点だ、と豪炎寺の少しだけ困惑の混じった声に、はっと目が覚める。
「終点……?」
「ああ、すまない。オレも寝てしまっていて……」
 苦笑した豪炎寺に、寝起きの頭でも状況は即座に把握できた。確認するまでもなく二人で寝入ってしまっていたらしい。
 二人が降りるはずだった駅を電車はとうの昔に通過し、結局、終点まで来てしまっては、とりあえず降車するしかない。
 ぞろぞろと乗降口に向かう人の流れを視界に入れた鬼道は、いや、と小さく首を振った。
「多分、オレの方が寝たのは先だろう。すまなかった……」
 豪炎寺の身体に凭れてしまった感覚はうっすらと思いだせる。
 きっと豪炎寺は優しいから無理に起こすでもなく、そのまま寝かせてくれて、そして釣られてしまったのだろうと思うと、そもそも偵察に誘ったのも自分だったのに、と様々な後悔がじわりと鬼道の胸に広がった。
「それは気にしなくていい」
 ぽんと鬼道の肩を叩いた豪炎寺は、とりあえず降りよう、ともうほとんど人のいなくなった車両内を見回してから、バッグを肩に担ぎ直した。
「ああ」
 確かにここで足を止めていても仕方がない。
 鬼道もバッグの紐を肩に掛けると、先に歩き出した豪炎寺の後ろに続いて、電車を降りた。
 改札に向かう人の流れの中、豪炎寺と逸れないように、鬼道は慣れぬ人混みにぶつからないように気をつけて歩を進める。
 それに気づいた豪炎寺がそっと鬼道の袖口を引いてきた。
「豪炎寺?」
 手を握られたわけではない。けれどもそれと変わらぬ所作に、子ども扱いされている気もしたが、それだけではない恥ずかしさに鬼道の頬が紅潮した。

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