N.W.D -稲妻11別館-


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純情Days 3


 吹きつける北風にぶるりと身を震わせたのに気づいたのか、横を歩いていた豪炎寺が、鬼道、と少しだけ気遣いの色を滲ませた。
「ああ、すまない」
 きゅっと少しだけ縮こませてしまった首を恥ずかしげに姿勢を正し、鬼道は首を振る。
「流石に寒くなってきたな」
「ああ……」
 行儀が悪いと思いながら、ジャージのポケットに手を突っ込んだまま並んで歩く二人分の影を眺めながら、豪炎寺は小さく頷く。
「鬼道」
 ふと、視界の先に覚えのある看板を見つけて、足を止めた。
「寄り道してもいいか?」
「んん……?別に構わないが、珍しいな」
 きょとんと僅かに首を傾げながらも鬼道は多くは追及しない。
「ん……そうだな」
 円堂がいれば買い食いと言う名の寄り道することも珍しくはなかったが、基本的に二人のときには滅多にそういうことはない。だが、小腹が空いたりすれば、コンビニに寄ったりすることも皆無というわけではなかったし、最初の頃は慣れぬ買い食いにそわそわしていた鬼道も最近ではすっかり慣れたもので、時々は鬼道の方から豪炎寺を誘うこともあった。
「鬼道、こっちだ」
 数分と経たずに目的の店舗の前で足を止めた豪炎寺がくいと鬼道の腕を引く。
「すみません、たい焼き二つ」
 こじんまりとした店頭に人の良さそうな老婦人がにこにこと座っていた。初めての店に興味深げに並べられたたい焼きを眺める鬼道に構わず、豪炎寺はさっさと注文を済ませると、あ、と鬼道が声を上げたのにも構わず支払いまで済ませてしまう。
 ちゃりんと婦人の掌の上で軽い金属音を小銭が立てる。
「ほら、鬼道」
 自分の分は自分で払おうとバッグを開けようとした鬼道を豪炎寺が財布をポケットにしまいながら、商品を受け取るように促した。店主の手前、払う払わないで揉めるわけにもいかず、鬼道は渋々、婦人の手から二つのたい焼きを受け取る。じわりと掌に熱が広がった。食べていいんだぞ、と豪炎寺に促されるまま、たい焼きを見下ろすと本物でないと分かっているのにくりりとした目に躊躇を憶える。
「これは……」
 どこから食べたらいいんだ、と少しだけ困惑気味に呟いた鬼道に、早速頭から齧りついた豪炎寺が目を細め、もぐもぐと咀嚼しながら口許を綻ばせた。
「頭からでも尾からでも」
 好きなところから食べろ、という豪炎寺の言葉に鬼道はこくりと小さく頷くと育ちの良さを思わせる綺麗な所作で、両手に持ったたい焼きにゆっくりと口を寄せる。
 さくりとした皮の感触と口内に広がった餡のほどよい甘み。
「美味しいな……」
 一口分をきちんと飲み込んでから、嬉しそうに声を弾ませた姿に豪炎寺も満足げに笑みを零した。

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