N.W.D -稲妻11別館-


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風の谷のユウト ※某名作パロ※


 部屋に入った瞬間、眼前に広がった光景に全身の血液が沸騰した。
 音が消え、けれども男たちの息遣いだけは不思議なほどはっきりと聞こえる。
 どくりと指先一本一本に血流が流れこむのを感じながら、手の中の武器を構えたユウトは対峙した男たちに向けて一歩を踏みこんだ。
 応戦する男たちの攻撃を軽やかに躱しながら、全体重を乗せた重い一撃で一人、また一人、沈めていく。
 ガシン、と振り下ろされた剣を受け止め、薙ぎ払うように振り払い、力一杯腹を蹴り飛ばした。
 バタンと大きな物音に振り返ったユウトは新手の存在を認識し、激情のままにその距離を詰める。
 折れた自身の武器の代わりに床にあった敵の武器を手に取り、勢いのままに突き出した。グシャリと指先に感じる未知の感触。
それはユウトが初めて体験する人体に剣を突き立てた感覚。
 はっとユウトが息を呑むと同時に、若い男の声が響く。
「双方、動くな」
 朗々とした男の声と、ポタポタと剣を伝い流れ落ちる真っ赤な血がユウトの激情を鎮めていく。同時に恐怖によって全身が震える。
 剣から指を離したいのに、貼りついたように離すことができない。
 床に垂れる血の赤が鮮やかに広がっていく。
「ユウト。落ちつけ、ユウト……」
 けれども流れる血も顧みず、ユウトを諌めるようにシュウヤが声をかけた。
 あの男、と部屋の入口を埋め尽くした鎧姿から畏怖の声が上がるのに遅れて、攻撃を止めるよう敵の司令官の声が広くはない部屋の中に響く。
 ズシャっという音を立ててシュウヤ自ら剣から腕を引き抜くと同時に、重みを失った剣をだらりと垂れ下げたユウトは緊張から解放され、くらりと意識を失う。
 倒れかかったその細い身体をシュウヤが咄嗟に抱きかかえた。


 夜もすっかり更けた時刻に年頃の少女の自室を訪ねる無粋さを十分に理解した上で、シュウヤは旅立ちの別れを告げるために木製の扉をノックした。けれども返る声はない。
 寝ているとは到底思えず、心苦しさを覚えながらもゆっくり扉を押し開けた。
 決して広くはない室内はがらんとしていて、丁寧に畳まれた寝具につかった形跡はない。
 かりかりと壁に爪を立てる小さなユウトの従者の示すがままに、シュウヤが静かに何もない壁にゆっくりと手を当て、力をかけると何の抵抗もなく隠し扉が開かれた。
 躊躇いもなく内側に身を潜らせるとシュウヤは、明かりのない階段を一歩ずつ下っていく。
 随分と深い。
 足音だけがカツカツと響く中、シュウヤは迷うことなくどこまで続くか分からない階段を、この先にユウトがいることを確信して歩を進めていく。
 一本道はやがて、一つの明かりへとシュウヤを導く。
 光の中に探していた少女の姿を発見し、シュウヤは安堵の息を零した。
 小さな従者が戯れるようにユウトの傍で鳴き声を上げたのを合図に顔を起こした少女は、侵入者の存在にはっと息を飲む。
驚きに彩られた瞳は、けれども投げかけられた問いに感情を閉ざしたように、予め用意されていた解答を読み上げるように淡々と部屋の秘密を口にした。
 しかし、話しているうちにその口調に感情の昂りが混ざり始める。
 父や皆の病気を治したかった、と言ったユウトの口唇が震えた。
「でも、」
 そこまで言葉にしたユウトは俯いてしまう。
 僅かに震える肩に、彼女の心の痛みが見え隠れするようで、シュウヤは無言のまま、ユウトを見守る。
「もうここも閉める」
 俯いたままユウトは決意を口にする。
 本当は誰にも言うつもりなどなかったのに、とでもいうようにユウトは声を震わせた。
「さっき水を止めたから、やがて、皆枯れるだろう」
 けれども、そこまで口にすると感情の昂りを抑えられなくなったのか、わっと溢れる涙を隠すようにシュウヤの胸に飛びこんだ。
 肩を震わせて泣く少女の身体をぎゅっと抱きしめて、ユウトとその名をただ紡ぐ。
 嗚咽混じりに自分が怖い、と呟く少女をシュウヤはさらに強く抱きしめる。
「憎しみに駆られて何をするか分からない。もう誰も殺したくない」
 強気に振舞っていても腕の中の身体は細く、力を籠めれば折れてしまいそうで、シュウヤは静かにユウトを抱きしめたまま、強い決意を胸に秘め、空を睨み据えた。

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